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スポーツ×アカデミックを考える 『スポーツMBA Essence』公開セミナーを開催

早稲田大学『スポーツMBA Essence(Sport Master of Business Administration Essence)』は、社会人を対象にスポーツビジネスやスポーツマネジメントを習得するプログラムとして、昨年8月にスタートしました。

2018年5月28日、第2期に向けたプログラムの紹介と抱負を教授陣より発表するとともに、当プログラムを修了した1期生による活動報告などを行う公開セミナー「スポーツ×アカデミックを考える2」が行なわれました。冒頭で、プログラムリーダーの原田宗彦教授(スポーツ科学学術院)と長谷川博和教授(商学学術院)が、第1期を振り返りながらプログラムの内容と今後の展開について語りました。その後、第1期生より2名、ゲスト1名が登壇し、これまでの成果を発表しました。当セミナーの内容をダイジェストで紹介いたします。

 

『スポーツMBA Essence』の特徴

2025年に向けて、政府はスポーツ産業の市場規模を現状の3倍の15兆円に拡大する計画を発表していますが、その中で叫ばれているのが、スポーツ産業で活躍できる人材の不足です。

これからのスポーツ業界にコミットする人材を育成するための実践的なプログラムについて、第1期を振り返りながら、原田教授は次のように訴えました。

早稲田大学スポーツ科学学術院 原田宗彦教授(一般社団法人日本スポーツツーリズム推進機構代理理事、日本スポーツマネジメント学会会長、Jリーグ参与)

『スポーツMBA Essence』は、早稲田大学スポーツ科学学術院と早稲田大学ビジネススクール(WBS)の連携により展開しているノンディグリー・プログラムです。日本でもトップクラスの講師陣を揃え、学位プログラムと比べて自由度が非常に高いため、柔軟で高品質なカリキュラムを用意しています。ホームワークは義務ではなく権利だと位置づけ、学ぶことに熱意のある受講生の自ら学ぶ意欲や姿勢を尊重しています。

魅力のひとつは、多彩かつ豪華な講師陣です。昨年は琉球FCの社長など、有意義な課題を提供していただく講師陣をお招きしました。

人材、組織、マーケティング、新規事業戦略、アカウンティング、経営戦略、国際的なガバナンス、アジアのスポーツビジネス事情、経済、スポーツマーケティングなどを学ぶことで、包括的にスポーツビジネスの知識を深めていきます。

特にプログラムの後半では、グループ・プロジェクトを通じ、社会貢献やスポーツツーリズム、地方創生などをテーマにプレゼンテーションの場を設けるなど、半年間で密度の濃いプログラムが続きます。

第1期の受講生は、さまざまなバックグラウンドを持つ個性あふれる34名が揃いました。スポーツに関心のあるビジネスパーソンをはじめ、スポーツを経験してきた方、実際にプロスポーツ選手だった方、自治体の方など実にさまざまです。毎週会うメンバーなので、自然とつきあいは深くなりますが、あえてゆるい結びつきのもと、ネットワークを構築できることを意識して、アフタースクールでの会食も恒例となっています。

ここで重要なのは、弱い結びつきや人脈からはイノベーションが生まれやすく、人はクリエイティブになれるということです。受講された1期生の方々は、プログラムを通じて様々なビジネスのアイデアを持ち帰ることができたのではないかと考えています。新しい経験や知識を今の仕事に活かしたいと願う方がほとんどです。

ここで形成された新たなコミュニティでは、さまざまな課題についての情報交換が可能となります。たとえば、受講後もSNSで受講生同士がつながることで、現実の課題をグループメッセージで投げかけたときに、それぞれの知見を生かしながら解決するといったことも実際に生まれています。利害関係のない共通経験を経て信頼が生まれ、それを受講後も維持できれば、その後の活動において貴重な人脈となるでしょう。

 

スポーツ業界に必要な人材を創造する場

次に、当プログラムにおいてビジネスナレッジ面を主に担当する早稲田大学ビジネススクールを代表して、ビジネス・ファイナンス研究センター所長の長谷川博和教授が登壇し、成長産業であるスポーツ業界をより魅力的なものにするための底上げとして、そこで活躍する人材育成が重要だと強調されました。

早稲田大学商学学術院 長谷川博和教授(早稲田大学ビジネス・ファイナンス研究センター所長)

昨年度より、早稲田大学はグローバルで活発化するスポーツマネジメント教育を強化すべく、日本で初めて学内の専門教育機関とビジネススクールが連携したノンディグリー・プログラムとして『スポーツMBA Essence』を開講しました。

著名な講師陣にお越しいただくだけでなく、受講者同士のディスカッションに重きを置くことで、教育や受講生のコミュニティの質を高め、多様な受講生が集まる学びの場を提供しています。この場を起点に、スポーツ業界において様々なネットワークを強化していくビジョンもあります。

プログラムで得た知識は、一過性ではなく、それぞれが属する組織やチームの運営に活かされ、文化に影響を与えられることが重要です。プログラムを通じ、受講生の方々の考える力、観察力、実行力、人脈力、リーダーシップを伸ばし、イノベーターを生み出していきたいと考えています。

東京五輪を皮切りに、これからますます盛り上がるスポーツを感動産業、成長産業と捉えています。だからこそ必要なのは、スポーツマネジメント教育です。本年9月からの第2期では、さらに改良したプログラムを提供し、延いてはスポーツの価値を高めることに力を注ぎます。

 

『スポーツMBA Essence』の成果報告:元阪神タイガース 奥村武博氏

続いて、1期生の最初の報告者として、これまでのキャリアについて語ったのは元プロ野球選手で後に公認会計士となった異例のキャリアを持つ奥村武博氏です。現役引退後にキャリアを模索するリアルな話が印象的です。

奥村武博氏(元プロ野球選手、公認会計士、一般社団法人アスリートデュアルキャリア推進機構 代表理事 早稲田大学『スポーツMBA Essence』第1期修了)

1979年生まれ。高校卒業後、ドラフト6位で阪神タイガースに入団。度重なるケガにより、2001年に戦力外通告を受け現役引退。その後、飲食業などを経て、2017年に元プロ野球選手として初めての公認会計士となる。現在は現役時代の経験や会計の知識を活かし、講演やセミナーを通じて、アスリートのキャリア形成支援を行なう。

約20年前、高校卒業後に阪神タイガースに入団した奥村氏。現役生活を終え、引退したのは22歳でした。引退後は、自分がいかに世間知らずであったかということを思い知ります。その背景には、野球に打ち込んできたことで学びの機会が削がれ、視野が狭くなっていた状況があったと語ります。引退後、いくつかの職を経験した後に一念発起した同氏は、猛勉強の末2017年に公認会計士となられました。

そんな奥村氏が自身のことをきっかけにスポーツ選手のキャリア形成を考える中で出会ったのが、『スポーツMBA Essence』でした。実際に学んで多くの知識を得たことで、たくさんの気付きと将来の目標が見えてきました。

「私自身の経験からも言えますが、プロ野球に入団することを不安視する人は実はとても多いのです。その要因は、引退後の生活です。でも、この状況を放置していては、スポーツの中核にあるはずの優秀な選手のなり手がどんどんいなくなってしまいます。すると、エキサイティングなゲームが見られなくなり、プロスポーツの価値自体が下がり、そこで活躍する選手たちの引退後の未来もさらに暗いものになってしまうのです。

これは受講時にも習ったことですが、スポーツ選手のキャリアにおいて、引退後の不安がなくなり、その先も充実した生活が送れれば、優秀な選手がたくさん集まり、ゲーム自体もおもしろくなり、プロスポーツ自体の価値も高まるはずだと思うのです。

そうした思いがあって、私は早稲田大学の『スポーツMBA Essence』で学ぶのと並行して、一般社団法人アスリートデュアルキャリア推進機構を立ち上げました。現在は、デュアル・キャリアという考え方の啓発をはじめとしたアスリートのキャリア形成支援を通じ、スポーツの魅力を向上させるための活動をしています」

 

『スポーツMBA Essence』の成果報告:毎日新聞社 鈴木大介氏

続いて登壇したのは、毎日新聞社の鈴木大介氏です。東京2020オリンピック・パラリンピックのオフィシャル新聞パートナー契約締結にともない、オリンピック・パラリンピック室に着任したことが、受講のきっかけだと語ります。

鈴木大介氏(毎日新聞社オリンピック・パラリンピック室主任 早稲田大学『スポーツMBA Essence』第1期修了)

1977年生まれ。法政大学社会学部卒業後、1999年毎日新聞社入社。新聞広告の営業を経て、2016年に東京2020オリンピック・パラリンピックのオフィシャル新聞パートナー契約にともない、同年オリンピック・パラリンピック室に異動。自社のアクティベーション立案やパートナー連携を担当する。

「これまで、新聞広告営業の一環として、企業への協賛セールスを通じ間接的にスポーツにかかわっていました。しかし、今の部署に異動すると、何から手をつければよいのか分かりませんでした。オリンピック・パラリンピックパートナーとして迎える初めての大会ということはもとより、自社がスポーツイベントに協賛した経験が少ないためスポーツビジネスの蓄積もないことが理由でした。そんなときに出会った『スポーツMBA Essence』では、東京2020大会にむけた自社の戦略に活かすためのヒントを頂きました。

これまでの営業活動の中では、スポンサー企業の露出を増やすことが、協賛権利の最大化につながると考えてきましたが、講義の中では、アクティベーションの重要性を学びました。さらに、アクティベーションを自社のビジネスに活かすには、アイデアが重要であることも気づきました。

東京2020オリンピック開催1,000日前には、本社ビルにIOC加盟の206国・地域の旗を掲げました。これだけ多くの国の選手や関係者が東京にやってくることを知ってほしいというのがきっかけです。また、1964年の東京大会で、毎日新聞社が募集・選定した大会スローガン「世界は一つ 東京オリンピック」を、もう一度、発信したいとも考えました。この企画は、SNSの拡散等を通じて自社の協賛認知向上にも大きく貢献しました。

講座受講期間中には、平昌2018冬季オリンピックも視察しました。ここではトップパートナーの存在感の大きさを実感しました。アクティベーションを通じてオリンピックの価値を高め、さらに、自社のビジネスと上手に融合させるバランス感が印象的でした。

最後に、様々なバックグラウンドを持つ仲間たちとの学びはとても刺激になりました。今後も、東京2020オリンピック・パラリンピックパートナー企業として「心に残るアクティベーション」をつくっていきたいと考えています。」

 

ゲスト講演:「FIFAマスター」とキャリアプラン:プロサッカー選手 大滝麻未氏

続いてゲストとして大滝狟麻未氏が登壇しました。プロサッカー選手として活躍してきた大滝氏ですが、25歳で現役を引退します。今後も女子サッカーに携わりたいと思いながらも、自分にできることが見えず、苦悩したと言います。そこで、自分の道を切り拓くための道標が必要だと感じ、本場ヨーロッパのFIFAマスターで勉強することを決意。そこで得た体験と学びから、スポーツの社会的意義やパワーをあらためて実感し、自分ならではのキャリア形成につながりました。

大滝麻未氏(なでしこリーグ ニッパツ横浜FCシーガルズ所属)

1989年生まれ。早稲田大学を卒業後、フランスの一部リーグ「オリンピック・リヨン」に加入。2 度の国内チャンピオンと2012年のUEFA Women’s Champions Leagueを経験。2015年に引退を決意し、翌年、女子サッカー選手としては初となるFIFAマスターを取得。現在は現役に復帰し、サッカー選手をしながらFIFAマスターで得た知識を生かし、スポーツを通じた女性の支援活動を行なう

「FIFAマスターは、国際サッカー連盟とヨーロッパのシニアユースが提携するプログラムで、1年間で3カ国を周り、スポーツを総括的に学び、知識を習得するものです。同期の受講生には、プロサッカー選手としては、パク・チソン選手がいますが、ジャーナリストや弁護士、起業家など、スポーツに関わったことのない人がほとんど。さまざまなバックグラウンドを持つ23カ国からやって来た超個性派集団と共同生活をしながら学びをともにするという貴重な1年間を送りました。

最初にイギリスで学んだのは、スポーツの歴史について。ウインブルドンに携わる人に話を聞いてその歴史を学び、イギリスで流行したボール遊びがどのようにサッカーに発展したかという起源をたどりました。

次はミラノで約3カ月間、リーダーシップ、マーケティング、アカウンティングの3つのスポーツマネジメントを集中的に学びました。ちょうどイギリスのサッカーチーム「ユベントス」がロゴを変更して話題になっていたときで、そのブランディング戦略について、実際の担当者に聞くという貴重な経験ができました。

最後はスイスでスポーツと法律について学び、クラブライセンス制度やスポンサーシップなどで生じる法的な問題点について勉強しました。

それまで感情や熱意でしかものを言えなかったのですが、スポーツの原理原則を学んだことで、理論的に自分の意見を言えるようになり、自分の発言に自信を持つことができたのは何より大きかったです。また、異なる視点で物事を見ることができるようになりました。スポーツマネジメントの授業では、限られた時間の中で、チームでブレストをした上でパワーポイントにまとめてプレゼンテーションするといった実践的な授業が多いのも特徴でした。

そこから得たものとして大きいのは、卒業生同士のコミュニティの存在です。これまでFIFAマスターには475人の卒業生がいますが、その90%はスポーツ産業に携わっています。その内200人がサッカー界、40人がFIFAで働いています。世界80カ国のネットワークは、私のこれからのキャリアを支えてくれる強力なサポーターになると確信しています。

「FIFAマスター」を取得し、私にしかできない女子サッカーとの関わり方ができるのではないかと考えています。サッカー選手として東京五輪を目指し、女子サッカー界を盛り上げること。さらに、これまでの経験を生かしてビジネスパーソンやアスリートとして、女子サッカー選手がより身近で愛される存在になれる活動をしていけたらと考えています」

 

<※『スポーツMBA Essence』について>

詳細情報は、右記URLよりご確認ください。http://www.waseda.jp/prj-sportmba/

 

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