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「学びで新たな人生が開けた!」 講師・写真家の塩澤秀樹先生×写真家デビューした三小田智子さん

早稲田大学のオープンカレッジで開講している講座「初心者のための写真撮影術」では、フォトグラファーの塩澤秀樹先生が講師を務めています。今年で12年目の開催となる同講座では、これまでさまざまな方がご自身の目的のために写真の技術を身につけ、写真を撮る楽しさを学んできました。そんな受講生の1人が、今回紹介する三小田智子さんです。

同講座を受講した三小田さんはその後、塩澤先生の中級クラス「ステップアップ写真撮影術」でも学びを深め、写真コンテストでの入選を経て、フォトグラファーとなりました。専業主婦からプロの写真家となった三小田さんと塩澤先生のお2人に、写真を心から楽しみ、学びを深めることの意義について伺いました。

<プロフィール>

塩澤秀樹先生

1962年東京生まれ。早稲田大学在学中より、建築写真家の故中村保氏(早大OB)に師事。1985年よりインドやネパール、東ヨーロッパでの自主撮影を実施。指揮者 西本智実氏の公式ポートレートをはじめ、さまざまな人物撮影を数多く手がける。「早稲田大学創立125周年記念事業」の広告が第75回「毎日広告デザイン賞準部門賞」を受賞。http://www.shiozawahideki.com/

 

三小田智子さん

子育てが一段落し、2012年より念願であった一眼レフカメラで写真を撮り始める。ファインダー越しに見る世界の美しさに心奪われ、花や風景を中心としたスナップ撮影に加えて本格的なテーブルフォトにも挑戦。プロの写真家になることを決意し、現在は商品撮影のほか、海外の風景、街並みの写真を多方面に提供。Tokyo2020に向けて、変わりゆく東京都中央区晴海の街も撮り続けている。https://www.tomokomikoda.com/

 

年齢に関係無く、やる気さえあれば好きなことを存分に学べる

———— プロのフォトグラファーとして活動する塩澤先生ですが、写真を教えるようになったきっかけは?

塩澤先生:私はもともと夜間に授業を行う早稲田大学第二文学部(文学学術院の学部再編により廃止)で美術を専攻し、サークルでは写真部に所属していました。昼間は建築写真家のアシスタントとして生計を立てていました。カメラマンを志し、ずっと写真漬けの生活を送っていました。

講師になったきっかけは、当時の恩師から勧められたことです。実際に講師をやってみたら、写真が好きなのにどうすればよいのかがわからず悶々としている人が思った以上に多く、私がその力になれればと考えるようになりました。

————三小田さんが早稲田大学オープンカレッジの講座「初心者のための写真撮影術」を受講したきっかけは何だったのでしょう?

三小田さん:子どもが高校野球をやっていて、子どもたちの表情を撮りたいと思って写真を始めました。当時はコンデジ(コンパクトデジタルカメラの略)でしたが、子どもが大学に進学し、子育てがひと段落したのを機に一眼カメラを購入したので、子育てがひと段落し、あらためてちゃんと写真の技術を習いたいと考えました。そんな矢先、たまたま近所でオープンカレッジのパンフレットを見つけたのです。

これまでずっと子どものことにばかり時間を使ってきましたが、そのパンフレットを見たときに写真だけでなく英語など、あらゆる分野の講座があることを知り、その豊富なバリエーションに驚きました。「大学の生涯教育ってこんなことも教えているのね。やろうと思えばどんな勉強でもできるんだ。」と思えて、すごく嬉しかったのを覚えています。実際に受講してみて、自分が学びたいことに時間を使えることがものすごく新鮮でした。

———— 三小田さんは「初心者のための写真撮影術講座」で勉強した後、その「学び」を発展させて2013年にはJPA展、2017年にはプロの写真家の登竜門といわれるJPS展で入選されたのですね。

三小田さん:プロといわれるとおこがましいですが、もともとは写真が好きで始めたのが、一昨年ぐらいからそれだけでは物足りなくなって、たまたま写真のお仕事をいただいたことも自信となり、思い切ってJPS展にエントリーしてみました。

※こちらの作品は三小田さんがJPA展で入選した「家族で描くスクェア」

塩澤先生:それについて、私はなにもアドバイスしていません。三小田さんの場合、情熱を持って好きで写真を撮っていて、そこが一番のモチベーションなのだと思います。伸びる人というのは、放っておいても勝手にやる人です。三小田さんは情熱のおもむくまま、どんどん写真を撮るから、受講当初からその気持ちが写真にもよく表れていました。そういう意味でも、受講しているときから光るものを感じていました。

三小田さん:先生にそう言っていただけると嬉しいです。ありがとうございます。

 

印象深い授業は、写真を目で見て、ひたすら“感じる”こと

三小田さん:講座では、写真を撮る技術やカメラの使い方を教えていただきましたが、一番勉強になったのは、塩澤先生の写真を見せていただいたことです。ネパールの子どもたちのはにかんだ笑顔やしわくちゃになって笑う老人など、「どうしたら先生はああいう笑顔を引き出せるのかな」と思いながら、見ているだけで心が震えました。今思い出しても泣けてくるぐらい(笑)スライドで写真を見せていただくとき、説明がなくても深く感動できました。その時間が一番幸せな時間でした。

私は人を撮りたくて写真を始めたのですが、いざ一眼カメラを手にしたら、人にカメラを向けるのが怖くなってしまって、カメラの設定のために相手を待たせるのも怖いのです。撮られる人にしてみたら、この空白の時間って何だろう?と思うのではと考えてしまうのです。

塩澤先生:私も人を撮ることがライフワークですが、最初は人を撮るのが怖かったです。自分の弱さも含め、人と対峙することの怖さはどうしても心に在ります。ただ、それを克服しないといけないなと思っていました。

三小田さん:それを克服するのに何年ぐらいかかりましたか?

塩澤先生:幼少期から20代前半まではずっとそうでした。もともと山岳部に入っていたほど山が好きで、20代中ごろのあるとき、ヒマラヤを見たくて現地へ行きました。そこで村の人々が光って見えたことが克服のきっかけです。そこにはモノやお金がなくても、自分が自分であることに安心しきっている姿がありました。生きていることに対する安堵感なのかなと考えるうちに、気がついたらヒマラヤよりも人を見ている方が楽しくなっていて、夢中で写真を撮っていました。

三小田さん:先生に影響を受けて、私もお正月明けにネパールへ行き、いきいきとした子どもたちの姿を見ることができました。とにかく子どもたちが人懐っこく近寄ってくるので、近すぎてピントが合ってないショットもありましたが(笑)、でも一つ乗り越えたような、とても貴重な経験が出来ました。

 

写真は自分を写し出す鏡のようなもの。受講生の情熱は写真に表れる

———— 塩澤先生の講座で写真を学んだ感想はいかがでしたか?

三小田さん:子育てがひと段落したタイミングで、本当に良い学びの場と出会い、写真を始めて人生が変わったと感じています。受講の成果発表として受講生による写真展を大学のギャラリーで開くのですが、それを目標にワクワクしながら授業や撮影に取り組むことができ、とても有意義でした。

塩澤先生:私は受講生の作品について、先入観なしで見ていますが、撮ったときの感動はそのまま写真からも伝わってくるものです。逆に、「迷いながら撮っているな」ということも、やはり写真に表れます。写真というのはある意味怖いもので、自分の“本気”が写るので、その人がどれだけ情熱をもって撮っているかということもわかってしまいます。

三小田さん:塩澤先生はやはりアーティストだから、感受性が鋭いし、その感じ方を授業で伺うのもすごく勉強になりました。

塩澤先生:三小田さんの純粋さも写真に表れていましたよ。

 

「初心者のための写真撮影術講座」を経て、プロの写真家へ

———— 三小田さんが写真家になろうと思ったきっかけは?

三小田さん:ソニーが主催する写真投稿サイトがありまして、その中でみなさんとやりとりしている中で、写真を褒めていただいたこともあり、それが自信のひとつになりました。そのコミュニティで趣味の範疇として楽しく取り組んでいたのですが、そのうちに楽しいだけでは物足りなくなってきたのです。私は自分にプレッシャーを課すのが好きで、これからはもう少しシビアに写真と向き合おうと思い始めたのが一昨年の冬ぐらいのことです。

塩澤先生:受講生からプロになったのは三小田さんが初めてで、私もびっくりしています。仕事で必要になって習いにくる方も中にはいますが、三小田さんの場合は、好きが高じてプロになった好例です。

三小田さんが厳しいプロの世界に入ることを自ら願ったことこそが、実際にプロになるということなのです。私もかつてプロの世界に入ろうと思っていて、気づいたらプロになって、実際に厳しい世界にいます。もちろん、どんな世界でもプロになることは楽ではありません。でも、生半可な気持ちでやるよりも自分を律することができると思います。

三小田さん:今でも、楽しくやっていた方が楽だったかなと思うこともあります。家にいると、夫からも「なんか撮りに行かなくていいの?」と急きたてられ、「仕事にすると決めた以上、もうぼんやりとテレビを見ていられないんだな」と思うこともあります(笑)でもやっぱり、「楽しいだけじゃ嫌だ」と感じたときのことを思い返して、自らを奮い立たせるようにしています。

———— 三小田さんは現在、どのような仕事を請けているのですか?

三小田さん:現在は、企業のプレスリリース時の撮影をしたり、ストックフォトに写真を預けたりしています。また最近では飲食店からポスター撮りのお話を頂いています。9月からは自宅でタイ料理を作ってスタイリングして撮る、という内容の教室を開く予定でいます。プロである以上、新たに勉強しなければならないこともたくさんあって、塩澤先生に単発の講座を開いていただけたらと思うほどです。勉強の一環として、今でも、当時の受講生のメンバーで集まって塩澤先生をお呼びし、年に4回ほど講評会を開催しています。

塩澤先生:2013年ぐらいからですよね。毎回季節に合わせてテーマを変えて、人物撮影会のほか、水族館での撮影会もありましたね。私は受講生の有志からプライベートレッスンのお誘いを受けたら、なるべくお受けするようにしています。考えてみたら、オープンカレッジをきっかけに三小田さんとも出会い、写真を通じていろんな人とも出会い、今も交流が続いているというのは、とてもありがたいことだなと思っています。

三小田さん:考えてみたら、長いおつきあいですよね。

塩澤先生:気づいたら同じ土俵?ですよ。負けていられないな(笑)。

三小田さん:いいえ、とんでもないです。撮影のスキルに関しては、一朝一夕では達成できませんので、塩澤先生の作品を見るたびに本当にすばらしいなと感動しています。

 

写真の真髄をプロから吸収し、感性を磨ける場

———— 塩澤先生が、プロの写真家として活動しながら講座で教える意義は?

塩澤先生:プロの養成というよりは趣味の講座として、みなさんが写真を撮ることで生活に潤いが生まれるといいなと考えています。自身が撮影した写真によって元気になり、好奇心が広がり、それが生活によい影響を与えることが重要だと考えています。たとえば、夫婦同士でお互いの写真を撮ってその写真を玄関に飾ったとき、家族や夫婦の関係にどんな風に影響するのかといったことに関心があります。

もちろん、受講生のみなさんの興味のベクトルも持っているカメラの機種も多様なので、撮影や表現の方法も様々です。最近では、スマートフォンでの撮影を前提に受講する方もいて、驚くことがあります。それぞれの求めに対しライブでお答えすることを意識しているうちに、私自身もかなり鍛えられたと思います。そういう意味でも、逆に私の方が受講生のみなさんから多くのことを教えていただいています。

三小田さん:蓋を開けてみないと予測できない中で対応できるというのは、すごいと思います。

塩澤先生:技術的なことに関してはきちんと伝えますが、一方で、写真をお見せするときにはあえて何も言わないようにすることを意識しています。言葉によって方向性を与えず、自由に感じてほしいと考えるからです。

三小田さん:先生の心のこもったお言葉は、毎回授業で大切に伺っていましたが、無言で写真を見せてくださるときも、先生のお気持ちが伝わってきました。そういう意味では、技術的なことを学ぶだけでなく、感性を磨く場でもありました。技術的なことでいえば、指揮者の西本智実さんを撮った写真の種明かしをしていただき、その内容に驚きました。

塩澤先生:あれは最新の機材を使って、一瞬入魂で、古典的な手法で撮っています。そうしたプロのテクニックを惜しみなく伝えることも私の役割です。「“下手な鉄砲も数撃ちゃ当たる”は間違いですよ」といつも教えています。

三小田さん:それこそ“塩澤イズム”ですね。私もそういう意味では先生とスタンスが似ていて、いつも撮影のときはカメラの神様にお願いして、「絶対チャンスがある」と信じて撮っています。そういう部分でも、塩澤先生に通じるものがあるかもしれません。

塩澤先生:ツバメを撮った三小田さんの作品がありますが、あれは連写で撮ったんじゃないんですか?(笑)。

三小田さん:あれはカメラ会社からボディをお借りし、AFの追従機能を利用するための撮影だったので、さすがに連写で撮りましたよ(笑)。

———— 最後に、好きなことのために、一歩踏み出して新たな世界を広げようとしている人に、お二人からメッセージをお願いします。

三小田さん:子育て中はどうしても子どもにばかり目が行きがちですが、常に好きなことにアンテナを張って、ここぞというときに反応できれば、きっといいチャンスが巡ってくると思います。今は、誰でもカメラやスマートフォンで写真を撮れる時代です。SNSの普及で画像の投稿も盛んになり、アマチュアでも写真が上手な人は増えていると思います。技術的なことを学んで本格的に写真を始めるにしても、原動力は楽しいこと。その気持ちを大事にして、学びを深めてみてはいかがでしょうか。

塩澤先生:好きな気持ちを大事にして、とことん追求していただけたらと思います。写真を撮ること自体はスタンドプレーで孤独な作業ではありますが、撮った写真を持ち寄ることで、人と交流することができます。オープンカレッジの写真講座では、そういう意味でもとてもよい学びの場が用意されています。いろんな人たちと写真を見せ合い、講評し合い、感じ合うことでさらに世界が広がります。そのような学びを通じて、ほんのすこしでも人生を豊かなものにしていただけたらと思います。

———— 塩澤先生、三小田さん、ありがとうございました。

※塩澤先生は早稲田大学オープンカレッジにて春学期に「初心者のための写真撮影術」、秋学期に「ステップアップ写真撮影術」を担当しています。リンク先について「初心者のための写真撮影術」は今春終了済みのシラバスとなっております。「ステップアップ写真撮影術」は昨年度のシラバスとなっております。今年度秋学期の講座情報は7月31日に公開予定です。秋学期の受講をご検討の際は、7月31日以降にこちらからご確認ください。

 

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