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経験を積んだからこそ学べることがある。 社会人が大学で学ぶ意義とは? オープンカレッジ講師 松園伸 文学学術院教授

早稲田大学 文学学術院 松園伸教授 英国王立歴史学会正会員(FRHistS)

日本と比較しながらイギリスを考える

早稲田大学エクステンションセンターは、社会人向けの生涯学習教育機関です。私がオープンカレッジの講義を担当するようになって、ちょうど10年になります。私は主にイギリスをはじめとする西洋史が専門ですが、社会人のみなさんは、西洋を専門とする学者や研究者を目指しているわけではありません。そこで、必ず日本を中心に置いてイギリスを考えることを心がけています。たとえば、19世紀半ばというと、日本ではちょうど幕末から明治維新の時代にあたります。一方、イギリスではビクトリア女王の時代でした。また、現在、日本では東京と地方の格差が問題になっていますが、イギリスでも同じような問題を抱えています。このように、いろいろな角度で日本との比較の中からイギリスを考える講義をこころがけています。

現役学生と同じ水準の授業を実施

講座を担当することになった当初、学生時代からブランクのある社会人の方には、学生よりも易しい内容から始める必要があると考えていました。しかし、1回目の授業でその考えは杞憂であることを強く認識しました。というのも、受講者の中には、イギリスで何年も働いている方もいれば、ご自身でイギリスについての本を書かれている方までおり、また社会人としてキャリアを積み、豊富な知識と経験を持つ受講者が集まっていて、現役の学部学生向けの授業の水準でなければ陳腐に感じられてしまうと直感したのです。

また私自身、社会人教育に携わることで、大学や大学院での教育とはまったく異なる楽しさを感じています。人はみな、これまでの経験とともに、人や社会に対する見方が変わっていくものです。社会人の方は、会社でマネジメントを経験する、海外に赴任する、あるいは子育てを経験するなど、多くの経験を積んだことにより、学生にはない“人間力”が備わっています。そうした人間力は、学問をする上でも非常に重要だと実感しています。

自分の考えをしっかり持った社会人の方は、積極的に質問をされます。「なぜスコットランド人はそんなにイングランド人が嫌いなのか」など、学生からは絶対に出ないようなシンプルな質問が出てくるのも、社会人教育ならではの醍醐味です。日々教鞭をとる中で、むしろ、私自身が社会人の方から多くのことを学ばせていただいています。

教室での出会いが豊かなコミュニティにつながる

授業の初めに必ず自己紹介をしてもらうのですが、一緒に学ぶ方々がお互いに出身地や現在・過去の仕事などを知ることで、横のつながりができます。知識を身につけることも大切ですが、オープンカレッジでは、こうした横のつながりも非常に大事だと考えています。なぜなら、例えば定年退職や育児のために一旦会社を離れた方には、社会とのつながりを持つための貴重な場になっていると感じるからです。同じ趣味嗜好の人が集まって自主的なサークルができるなど、受講をきっかけに人間関係が広がっていきます。例えばスコットランド史の講座を担当し始めてまもなくのクラスでは、受講生の一人が「東京でパブを運営しているから行きませんか?」と誘ってくださいました。そこで、クラスのみんなで一緒にスコッチウィスキーを飲み、イギリスやスコットランドについて語り合ったのも良い思い出です。今でもその繋がりは続いています。こうしたことも、社会人教育ならではの楽しさだと考えています。

最先端の学問にふれられるオープンカレッジ

多くの方々が社会に出た後、それまで培ってきた知識やスキルだけでは不足することを感じていると思います。たとえば、心理学を学ぶことで、部下のマネジメントや上司とのコミュニケーションに生かすことができます。また、ビッグデータに携わっている方には、統計学が役に立つかもしれません。このように、不足を補う形でこの生涯学習教育機関を利用していただければとも考えています。

オープンカレッジでは、先進的な研究を進めている現役の教員が、その成果を社会にわかりやすく還元することを一つの目的としています。どんな学問でも、日々研究は進化しており、みなさんが20年、30年前に学んだ内容とは驚くほど変わっていることでしょう。そうした新しい発見を得られる場こそが、大学なのです。

探究心の追究や仲間づくり、知識やスキルのブラッシュアップなど、目的は多種多様ではありますが、今後も多くの社会人の皆さんが、学部や大学院の学生としてのみではなく、オープンカレッジをはじめとするノンディグリーのプログラムなども活用して早稲田大学に通ってくださるのを心より期待しています。

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