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60歳から「黄金の15年」が始まる! 人生の後半戦をより良く生きるための秘訣

 

「大学での学びは、あらゆる人のものである」という考えのもと、早稲田大学では「早稲田大学社会人教育事業室」というセクションを設け、さまざまな世代に向けた学びの場を提供しています。

5月29日(土)には、オンラインイベント「人生100年時代におけるライフデザイン~人生の後半をどう生きるか~」を開催しました。本イベントは、人生の後半について一人ひとりが考えることの重要性を伝えるものです。また、人生後半の生き方をより良くする方法について議論することも、目的の一つとしています。

当日は、ベストセラー『定年後 50歳からの生き方、終わり方』の著者であり、神戸松蔭女子学院大学の教授でもある楠木 新さんが基調講演を行ったほか、4名のパネリストたちによるパネルディスカッションを実施しました。イベントリポートの前半にあたる本記事では、基調講演の内容を抜粋・編集してご紹介します。

楠木 新 氏
1954年、神戸市生まれ。京都大学法学部卒業後、生命保険会社入社。人事労務畑を中心に経営企画、支社長などを経験。体調を崩したことをきっかけに50歳から職務と並行して取材・執筆・講演活動に取り組む。15年定年退職。18年から神戸松蔭女子学院大学教授。著書に『定年後』『定年準備』『定年後のお金』(いずれも中公新書)、『人事部は見ている。』(日経プレミアムシリーズ)、『就活の勘違い』(朝日新書)など多数。

 

人生の後半をより良く過ごせば、人生全体が輝く

「定年後の居場所-終着駅は始発駅―」と題された、今回の基調講演。講演の冒頭、楠木さんは「定年後の居場所」という言葉の意味について、こう説明しました。「65歳を迎えたのを機に会社を退職し、現役を退く人が多くいます。しかし、退職して会社での役職を失ったことで、自分が何者なのか分からなくなってしまう人がいます。この迷いを解決するうえで役に立つのは、自分なりの居場所です。ここでいう居場所とは、自分が生まれ育った故郷、学び、趣味などがきっかけとなり、見つかるものです。「私が一番私らしくなれる場所」と言っても良いでしょう。」

 

 

楠木さんによると、「人生においては後半戦が勝負」とのこと。後半戦とは、定年退職を意識し始める45〜50歳以降の人生のこと。後半戦がいいものであるほど、人生全体が輝く傾向があるようです。

「『終わり良ければすべて良し』ということわざが示すとおり、人生の後半が充実していれば、辛い過去さえも輝くもの。つまり、人生の後半をより良く生きることが大切なのです。現役を退いた後、どこに自分なりの居場所があるのか、しっかりと考えていただきたいと思います」

 

定年退職を迎える前に、「こころの定年」が訪れる人も

楠木さんは、自身が50歳になる頃、インタビューと執筆活動を始めました。おもな取材対象は、組織で働く中高年。取材をするなかで、彼らの多くがある惑いをもっていることに気が付いたそうです。

「会社に適応できており、きちんと仕事をしているにも関わらず、心が揺れ始めている人が多くいました。そうした人のなかには、『成長している実感が得られなくなった』『このまま時間が流れていっていいのだろうか』と話す人もいました。このような実際の定年前に生じる中高年の心の迷いを楠木さんは、「こころの定年」と名付けたそうです。

 


楠木さんの例

 

どうすれば、中高年以降の人が活き活きと働けるのか? こうした問いを抱いたのを機に、楠木さんは次のような仮説を組み立てました。

「人は皆、時の流れとともに日々を生きています。活き活きと暮らし、働けるラインを『活きいき線』とし、調子は良くないものの、なんとか会社に行くことができる状態を『通勤線』と名付けた場合、ほとんどの人が『活き活き線』と『通勤線』の間を上下しながら、生きているように思います(上図)。『活き活き線』をずっと走り切れば、『こころの定年』に直面するのを避けることができますが、これを難しくしている根本的な原因があるようです」

 

人生の後半を生き生きと過ごせない理由

「生き生き線」を最後まで走り切れない要因は、大きく2つあるそう。うち1つは、日本の企業の仕組みにあるといいます。
「新卒で入社した企業で定年まで長く働き続けるというのが、今の中高年の一般的な働き方です。若い頃は、同期と刺激し合いながら楽しく働けるものの、中高年を迎えたとたん、『自分はこのままでいいのだろうか』と惑いを抱える人が多くいます。この惑いは、同じ組織で長く働き続けることで生じるマンネリ感、停滞感が要因になっているようです。長年、同じ環境で働き続けることを前提とする日本の雇用システムが、『こころの定年』と関係しているのではないでしょうか」

 

 

もう1つの要因は、人生そのものの仕組みにあるのだとか。
「40歳頃になるまでは、人生は右肩上がりの傾向があります。役職や年収がだんだんと上がり、やがてマイホームも持つ人もいます。しかし50代を迎えると、多くの人は同じ働き方ではうまくいかないと感じ始めます。しかし気持ちをうまく切り替えるのはむつかしいものです。また、寿命が伸び、定年後の人生が25〜30年と長くなった点も関係しています。長い定年後の人生に対応できるかどうかは未知の問題であり、不安要素になり得ます」

 

まずは、75歳までの生き方を考えるのがオススメ

楠木さんによると、「こころの定年」を避けるために大切なのは、主体性をもつこと。しかし、周囲と協調しながら働く必要がある企業人は、主体性や個性を押し殺してしまいがち。これが中高年以降も生き生きと過ごすうえで、足かせになることがあります。50代を迎えた段階で定年後の暮らしを意識し、徐々にでも準備を始めることが、大切だと主張しています。

 

 

ちなみに、高齢者の日常生活自立度の推移を表したグラフ(上図)を参照すると、60代で急激に自立度が落ちる人は、男性で全体の19%ほど、女性で全体の12%ほどいることがわかります。いっぽうで、高齢男性の80%以上、高齢女性の90%以上が、70代半ばあたりを迎えるまで「自立度3」をキープしていることも明らかに。つまり、大多数の高齢者が、75歳までは身の回りのことを自立して一通りこなせるということ。このデータを受けて、楠木さんは「まずは、自由に動ける75歳までを視野に入れて、定年後の生き方を考えるのがオススメです」と話します。

 

人生における総労働時間よりも長い自由時間

楠木さんいわく、60歳から75歳までは、「黄金の15年」。この「黄金の15年」は、思っている以上に長く、自由に過ごせる月日でもあるようです。

「現役を引退すると、食事や風呂以外の時間を自由に使えるため、1日のうち11時間ほどが自由時間になります。60歳以降の平均余命から定年後の自由時間を計算してみると男性で、およそ8万時間に。女性はこれよりも長くなります。これは、20〜60歳までの労働時間をすべて足した時間より、長い時間になるのです」

 

 

「黄金の15年」を充実したものにするためには、現役の頃から準備をしておくのがオススメだそうです。具体的な準備の内容を、楠木さんはこう話します。

「50代になれば、会社員以外の『もう1人の自分』をつくることを意識するといいでしょう。副業を始めるのも一つの方法ですが、ほかにも起業の準備、趣味、地域活動、学び直しなど、さまざまな選択肢があります。ここで大切なことは自分に合ったものに取り組むことです。なかでもオススメなのは、学び直しです。学び直しは年齢を問わずにできるものですし、豊かな環境や仲間に出会うきっかけにもなります」

ちなみに、「もう1人の自分」が生き生きし始めると相乗効果が生まれ、会社員として過ごす時間にも張りが出てくるのだとか。

***

「自分が『いい顔』で過ごせるものを探しましょう。“終着駅”を“始発駅”に変えることができますよ」という言葉で、講演を締めくくった楠木さん。新たな世界に向けた前向きな言葉から、元気や気づきをもらった人は多くいるのではないでしょうか。

 

現在、早稲田大学では、50歳以上の方々を対象にしたカレッジの準備を行っています。本カレッジ構想では、本格的な教育プログラムのもと1年間学ぶことができ、人生を再設計し踏み出すための知識とコミュニティを得ることができます。ご関心のある方は、秋に説明会を開催予定ですので是非ご参加ください。説明会の情報は開催1か月前を目途に下記ウェブサイト「まなびのコンパス」に掲載いたします。

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