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業界の革命児「ゴーストキッチンズ」が、飲食の常識を覆す! DX化で生まれる新しい時代の飲食経営とは?

コロナ禍において、外食をはじめとするあたりまえのことが制限されるようになりました。

営業自粛期間が長引き、苦境に立たされる飲食業界において、新しい業態として注目されているのが、「ゴーストレストラン」です。

2月26日に開催したパイオニアセミナーでは、その新業態をいち早く確立し成長した株式会社ゴーストレストラン研究所 代表取締役の吉見 悠紀 氏をお迎えしました。

業界の常識を覆す、飲食業界のDX化をはじめ、持続可能な経営や人材の扱い方、独自のアイデア発想法などについて語っていただきました。

当日のセミナーの模様を一部抜粋の上、レポートします。

 

株式会社ゴーストレストラン研究所 代表取締役

吉見悠紀氏

広告代理店を退社後、AKINDOを設立。日本企業のアジア進出促進を目指し、マレーシアを中心に食材の輸出やPRイベントを行う。その後、社名を「eat works」に変更し、有名シェフのマネジメント、食のPRを担当。2019年1月から1キッチン複数業態型のゴーストレストラン「ゴーストキッチンズ」を運営するゴーストレストラン研究所を設立。

 

|アイデアは移動距離に比例。いろんなモノを見て、人と出会う大切さ

そもそも起業に興味を持っていた吉見氏は、勤務していた広告代理店を辞めて、海外へ。LCCができたばかりの当時、アジア諸国に安価で行けるようになり、身近な商圏として感じられたといいます。

マレーシアで仕事をしていたある時、食関連の輸入商社を立ち上げたばかりの飲み仲間と出会い、その話を受けて、日本でカウンターとなる会社を起業。

その事業自体は3年ほどで終焉を迎えるものの、その間、全国各地を自分の足で回り、直接生産者やシェフなどに出会い、それが今のビジネスにつながったといいます。

アイデアやビジネスモデルのソースとして吉見氏が挙げるのは、高城 剛 氏の著書で感銘を受けたという「アイデア」=「移動距離」。

「アイデアもビジネスモデルもやりたいことも、すべてアウトプット。インプットするには動くことが重要です。インターネットだけでもインプットはできますが、ネットは誰かが発信した二次情報なので、自分だけのオリジナルを求めるなら、やはり自分の五感や体を使って感じることが大事」(吉見氏)

さらに、物事の感じ方のコツは、なるべく自分に素直になることだといいます。一度インプットしたものは、世の中でどう捉えられているかという補正が入るものですが、それで決断したことで後々後悔した経験も。

「同じ後悔をするなら自分の感覚を信じて後悔した方がいい」と語る吉見氏は、その後も自分の感覚を信じながら、独自のビジネスモデルを構築し、さまざまなブランドを立ち上げていくことになります。

 

|店舗を持たない新業態「ゴーストレストラン」とは?

通常、「レストラン」といえばイートインできる店舗があり、そこで料理の提供やサービスがあるもの。それに対し、「ゴーストレストラン」はWeb上にのみ存在し、店舗にはキッチンのみでイートインの機能を持たず、半径3km圏内をターゲットにデリバリーやテイクアウトに特化した業態。

この業態を始めたきっかけは、アメリカ・中国での台頭、UberEatsや出前館、Woltなどのフードデリバリープラットフォームの日本での登場から「日本でもいずれ必要になる」「自分が、これがあれば便利だと思った」と考えた背景があるといいます。日本がコロナ禍に見舞われる1年以上前のことでした。

チラシなどの広告発信は行わず、注文受付や配達・集金といった手続きはすべてアウトソーシングすることで、飲食店は調理や開発に集中できるようになりました。

原価構造をみると、従来のレストランに比べ、配達料や手数料の割合が高め。でも、吉見氏によれば、近年増え続けるプラットフォームの競争激化により、アメリカなどではすでに価格が下がっている傾向にあるといいます。

「長期的に見れば、今後DX化が進むにつれて、自動運転やドローンでの配達の誕生、さらには今後の競争によって価格は下がっていくと考えています」(吉見氏)

 

|競争の激しい30兆円市場である「外食産業」で起業した理由

続けて、30兆円という大きな産業であり、競争の激しい外食産業であえてビジネスを始めた理由について説明する吉見氏。

「自動車産業におけるトヨタのシェアは30%。対して、外食産業のトップといわれる企業のシェアは、実はたった2%程度にすぎません。つまり、飲食業界自体は大きな産業ですが、全国の飲食店は60万店もあり、小さなプレーヤーがたくさん存在するマーケットなのです」(吉見氏)

さらに吉見氏が示したデータは、ミシュランの星付きレストランの世界の軒数ランキング。

断トツで1位は東京で、食の都ともいわれるパリとともに2位に京都、続けて4位に大阪がランクインしているのがわかります。

「プレーヤーが多いからこそ競争力があり、飲食業界が成熟している」と指摘する吉見氏。

|品質は世界最高峰なのに労働環境がよくないな飲食業をDXにより底上げしたい

一方で吉見氏は、プレーヤーが多いがゆえに価格競争が起きてしまった外食産業における労働賃金の低さ、生産性の低さについても言及します。

「日本の飲食業の品質自体は世界最高峰なのに、労働環境が低質なのが業界の特質であり、問題点」(吉見氏)

そこで吉見氏が考えたのは、新しいアイデアや技術を使って業界の利益構造を変えて、外食産業をもっと面白いものにすること。

他の業界同様、業界を活性化させるのは、DXが今の時代のキーワードだと語ります。

吉見氏が例に挙げたは、従来のレンタルビデオ屋のビジネスをデジタル化したNetflixなどの動画ストリーミングサービス。

「外食は店舗を持つ以上、物理的制約からは解放できない部分は多いです。一方でDXにより店舗の枠にとらわれずに、収益性を上げることができるはずだと考えました」(吉見氏)

ゴーストレストランの運営としては、「さらだのあるせいかつ」「二日酔い食堂」「ヴィーガンジャンクショップ!!」など17ブランドを展開。特徴は、ひとつのキッチンで効率良く複数のブランドを展開している点にあります。たった17坪のキッチンなどからなる様々な事業で、目指す年商は、なんと1億円。

ゴーストレストランのビジネスモデルのメリットとして吉見氏が挙げるのは、ブランドの足し算で売上が伸び、業態チェンジもコストが少なくフレキシブルな点。また、ひとつのキッチンで食材を共通化させやすいことでロスが少ないといいます。

さまざまなブランド展開のメリットを紹介する吉見氏。

「アプリをリリースするような感覚で、ブランドをリリースしています。まずはベータ版のようなかたちでできあがったものをリリースし、お客さまの反応を見ながらさらに磨きをかけていき、100%に仕上げていくかたちです。業態のコストが少ないという点については、たとえばイタリアンで出店したものの、売上が上がらなかった場合、和食の店にチェンジしようと思ったら実店舗だと内装も含め多額のコストがかかってしまう。その点、ゴーストレストランは店舗を持たないので、低コストでいち早く市場のニーズに合った新業態にシフトすることができます」(吉見氏)

 

フランチャイズ展開により、遊休リソースで収益化

また、遊休リソースを利用したもうひとつの収益の柱である、フランチャイズ(FC)展開についても紹介されました。

ゴーストレンストランのFCの導入例として紹介されたのは、ビジネスホテル「ベッセルイン上野入谷駅前」のケース。

同ホテルでは、これまで朝食の提供のためにキッチンが機能するのみで、それ以外の時間帯は使われずにいました。そこを有効利用するために、ゴーストレストランのブランドを提供。オペレーションはホテルが手がけ、宿泊客への提供はもちろん、地域のデリバリーも展開されています。

「アメリカでフードデリバリーのメイン顧客は、ミレニアム世代や子育て中のママ世代。さらにその先、ママ世代の子どもたちにもデリバリーが広まるでしょう。10年単位で見たときに、デリバリープラットフォームが増えて競争原理が働き配達コストが下がることも考えると、将来的に見ても成長産業だと考えています」(吉見氏)

また、ドローンでの配達が可能になれば、地方に住む高齢者などにも届けられるようになるのもそう遠い未来ではないと語ります。

 

|地域のお客さんと一緒にブランドづくりをすることでファンを増やす

意外にも、商品開発をする際、従来の「マーケティング」をしないのが吉見氏の信条だといいます。

「デリバリーは半径3kmの狭いコミュニティが商圏。マクドナルドや吉野屋などは、同じ商品をなるべく多くの人に食べてもらうためにブランディングされていて、そのおかげで僕たちはコスパのいい食事の恩恵が受けられます。あえてそうしたアプローチではなく、テクノロジーの力でパーソナライズされた領域を狙って、それぞれの食嗜好に合ったものを提供したいと考えています」(吉見氏)

また、ゴーストレストランは、個々の考えにこたえる柔軟さ、仕組みづくりも強みだと説明する吉見氏。

「たとえば実際のエピソードで、僕が住む街にたまたまサラダ専門店がなくて、“僕”が食べたい、といった理由で作ったように、自由度の高い発想からブランディングすることが多いです」

「作る過程にいろんな人を巻き込みたい。究極はお客さんとともに作る食づくり。“地域の台所”としてお客さんにもブランド作りに参加してもらうことで、よりお店のファンになってもらえるでしょう。それが今後のトレンドになるのではないかと考えています」(吉見氏)

 

|アーリーステージにおけるチームづくり

近年、難航しているといわれる飲食業界での人材採用や育成についても触れられました。吉見氏は、「人が辞めず、長く勤めてもらえる労働環境を作る」スタンスを大事にしています。そのために取り入れたあらゆることについて紹介いただきました。

「僕が実際に飲食店で働いた経験から実践したのは、フライヤーを入れないこと。揚げ物を販売すれば売上が上がりやすいものの、作る方は1日働いて家に帰ると、ものすごく油臭くなるのです。自分が気持ちよくないことはできるだけなくしたいと思いました。自己犠牲の美学ではなく、自分を大切にし、なおかつみんなを大切にしながら勝てるビジネスを作る方がいい」(吉見氏)

さらに、人が心地よく働くための場所選びについて。そもそも実店舗を持たないゴーストレストランは、人が入りやすい好立地を選ぶ必要はありません。にもかかわらず、地下などの低コストの物件を選ばないのは理由がありました。

「地下物件を選べばコストも下がりますが、窓のない環境は働く人が心地よくないので、あえて選びません。むしろ飲食業は厨房にいる時間が長いからこそ、快適さを重視したい。数万円の家賃差で1階を選ぶほうが、何度も人が辞めては採用することを繰り返すよりは、結果的にコストがかからないと考えています」(吉見氏)

一方で、ベンチャーのアーリーステージということもあって、シビアな人材の見極めもありますが、それは経営側、働く人双方のためだということがわかります。

「お互いの相性を考慮し、2カ月間の試用期間を設けて、合わなければ辞めてもらうシステムです。その人がどんな人かわからないからこそ、入口は間口を広げて柔軟に採用し、仕事しながらお互いが気持ちいいか、そうでないかを見極めています」(吉見氏)

また、働く側が選ぶ人事採用を重視し、「いかに気持ちよく働けるかは、一緒に働く人間関係次第」と話す吉見氏。採用時の最終決定は従業員に任せることで、相性のいい人材が集まりやすくなるといいます。

最後に、みんなに自身のミッションに巻き込む独自の経営哲学についても語られました。

「何よりも強い事業計画とミッションが第一。漫画『ONE PEACE』のように“海賊王になる”というミッションを掲げることと、起業は近いと思います。メンバーが集まるのは、ルフィーのかっこいいところに魅せられるほか、“海賊王になる”というミッションを共有できているから。共感するからこそ、ワクワクするし、自ら動いてくれるようになります」

日本の食やサービスの質は世界的評価が高い一方で、これまでおきざりにされてきたのが、「労働環境」。

経営側のミッションに従業員が共感し、気持ちよく働けるからこそ、よりよい循環がつくられるのだと感じました。

外食産業が抱えてきた根本的な問題を解決しながら発展していく。そのミッションをもとにDXに取り組み、挑戦を続ける姿は、多くの業界でも参考になりそうです。

 

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