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サタデーレクチャー ~早稲田の杜の教養シリーズ~ 「アマゾンの戦略~アマゾン&GAFAのテクノロジーと組織を読む」 開催報告

早稲田大学エクステンションセンターでは、注目の研究者や専門家をお招きし、現代社会、歴史、人間、科学などのさまざまなテーマで「サタデーレクチャー ~早稲田の杜の教養シリーズ~」を開講しています。

10月19日に開催された「サタデーレクチャー」には、元マイクロソフト・ジャパン代表取締役社長の成毛眞氏が登壇しました。成毛氏は、パソコンの普及が爆発的に進んだ1990年代にマイクロソフト・ジャパンを率いたIT業界のカリスマです。2000年に同社を退職した後は、投資会社の代表取締役と早稲田大学ビジネススクールの客員教授を兼任。現在は、書評サイト「HONZ」を運営しつつ2ヶ月に1冊ほどのペースで著書を出版しています。

この日の講演のタイトルは「アマゾンの戦略~アマゾン&GAFAのテクノロジーと組織を読む」。世界最大のITベンダーであるアマゾンをフィーチャーし、その“強さ”の秘密をひもとく内容です。また、同社が展開する多彩な事業を取り上げつつ今後の同社の動向について見解を述べられました。

成毛 眞氏
1955年生まれ。1986年マイクロソフト株式会社に入社。1991年同社社長に就任。2000年に退社後、投資コンサルティング会社「株式会社インスパイア」を設立。2011年書評サイトHONZを開設。元早稲田大学ビジネススクール客員教授。著書に『面白い本』(岩波新書)、『ビジネスマンへの歌舞伎案内』(NHK出版)、『黄金のアウトプット術 : インプットした情報を「お金」に変える』(ポプラ社)、『amazon 世界最先端の戦略がわかる』(ダイヤモンド社)、『定年まで待つな! 一生稼げる逆転のキャリア戦略』(PHP研究所)、『俺たちの定年後 ― 成毛流60歳からの生き方指南』(ワニブックス)など多数。

 

世界トップクラスの時価総額を誇るアマゾン

1994年にジェフ・ベゾス氏によって設立されたアマゾン。現時点での従業員数はおよそ64万人で昨年度の売上高は約25兆円となっています。また、世界時価総額のランキングにおいては、マイクロソフト、アップルに次ぐ第3位に位置しています(2019年10月時点)。

これらの数字を前に成毛氏はアマゾンを取り巻く現状について次のように語ります。「小売業界では、『アマゾンの巨大化によって中小規模の小売業者は経営破綻する』との見方が強まっていますが、私はこの見方に疑問を抱いています。なぜなら、約25兆円という売上高は、他の大企業に比べるととても小さく、実はアマゾンは儲かっていないことがわかるからです」

しかし、アマゾンの場合、売上高は小さいにも関わらず時価総額はトップクラス。これには理由があるそうです。「長年にわたりアマゾンの投資キャッシュフローにはマイナスの値がついています。ここから、アマゾンが毎年、何かしらのプロジェクトや設備に投資をしていたことがわかります。また、投資キャッシュフローの値が大きいことから、株式市場では成長余地があると判断され、高い株価がついたと考えられます」

 

無配当をつらぬき設備やシステムへの投資を重視

アマゾンのケースを踏まえ、成毛氏は時価総額の形成について次のように解説しました。「株主への配当こそ時価総額を形成する最良の方法との考え方がありますが、ご承知のとおり配当を行なっている企業の株価には大きな変化が見られません。配当の有無に関係なく成長力のある企業が株価を上げるというのはもはや常識でしょう」。配当にこだわらず投資キャッシュフローの値を上げることは、株価形成だけでなく経営においても要といえるようです。「アマゾンが大きく成長したのは、彼らの技術力や経営に対する思想が優れているからではありません。売上高の拡大や株主への配当を重視せず、投資によって最新設備を導入し、シェア獲得へとつなげたからこそ現在のアマゾンがあるといえます」

現在にいたるまで無配当を貫いてきたアマゾン。当然ながら資産は増え続け2017年には資産が15兆円を超えました。成毛氏いわく、この資産額は、小売業者としては異例の大きさだそうです。

 

規模、機能ともに秀でた設備がトップシェアを支える

現在、日米のEC業界においてアマゾンは高いシェアを誇ります。アマゾンの“強さ”を支える要因の一つが、在庫管理の単位を表す「SKU(ストック・キーピング・ユニット)」の数の多さにあるようです。成毛氏は、SKUの概要を交えつつこう説明します。「例えば、一つのTシャツに大中小の3サイズと、12のカラーがあったとします。商品名で管理した場合、そのTシャツは1種類しかありませんが、サイズ、色の違いを考慮した場合、全部で36種類存在することになります。SKUは、商品を最大まで細かく分別した場合のユニットの数なので、このTシャツのSKU数は36です。そして、現在アマゾンのデータベースでコントロールされている商品は、全部でおよそ1300万SKUあります。莫大な数字ですが、アマゾンがアメリカも商圏としている点を考えれば当然の数字といえるでしょう。Tシャツの例で言うならば、アメリカには大きな体格の人がたくさんいて、サイズのバリエーションは豊富である必要があります。また、SKU数が大きいことは、商圏がさらに拡大された場合に有利に働きます。なぜなら、世界にはさまざまな体格の人がおり、SKU数が大きいほど購入層が広がるからです」

そして、莫大なSKU数を抱えつつも、円滑に業務を進めるための投資は惜しまないのが、先述の通りアマゾンの特徴です。「アマゾンは、大規模な倉庫を膨大に所有しています。日本国内にも約15の倉庫があり、いずれも巨大です。例えば小田原にある倉庫は、なんと20万平米もの面積を持ちます。また、倉庫では、スピーディに移動しながら大量の商品を運ぶ「Kiva」というロボットが稼働しているため、作業効率はかなり高いといえます」

アマゾンが遠大であることを象徴するエピソードはまだまだあります。成毛氏によると、米国のアマゾンは、商品を運ぶための超大型トレーラーをおよそ4000台、航空機はおよそ16機保有しているそう。今後、航空機の数はさらに増える予定で、それに先立って自社専用の巨大空港を建築しているそうです。

 

低リスクでの事業運営を可能にするシステム

アマゾンが保有する設備だけでなくシステムにも話題が展開します。まず、アマゾンの特徴的なシステムの一つである「フルフィルメント by Amazon(FBA)」が紹介されました。FBAは、商品の保管から注文処理、出荷、配送、返品までをアマゾンが小売業者の代わりに担うシステムです。成毛氏は、FBAがもつメリットについて次のように話します。「おもにアマゾンが担っているのは、小売業者が出品した商品を彼らの代わりに販売し、出荷するという作業です。つまり、アマゾン自体は在庫を抱える必要がなく、低リスクで商売ができます」

また、FBAのもと、クレジットカードでの支払いが厳密に行われている点もポイントになります。現状、支払いと回収に伴うリスクは、アマゾンではなくクレジットカード会社が負担するかたちとなっているのだそうです。さらには、FBAがあることでアマゾンのキャッシュ・コンバージョン・サイクル(CCC)がマイナスになっていると続けます。「CCCとは、仕入債務を支払ってから売上代金が回収されるまでにかかる日数です。一般的にCCCがプラスであればあるほど企業の資金繰りは苦しくなり、仕入れへの支払いよりも売り上げ獲得の方が先立っている場合にCCCがマイナスになります」。商品が売れた時点でアマゾンは売り上げを獲得しますが、小売業者に手数料を差し引いた売上金が振り込まれるのは後日。一連の説明から、FBAによりアマゾンは資金繰りに困ることなく低リスクで事業の運営ができていることがわかります。

 

今やアマゾンの主力事業といえる「アマゾン ウェブ サービス(AWS)」

株の無配当とFBAなどにより莫大な資産を築いたアマゾン。前述したとおり、自社倉庫やトレーラー、航空機などに多額の投資をしていますが、それ以上の投資をしたといわれているのがクラウドコンピューティングサービス「アマゾン ウェブ サービス(AWS)」なのだそう。このAWSは目を見張るほど成長し、アメリカ国防総省からの契約を獲得するまでになったのだとか。また、今後、AWSはさらに成長する可能性が高いと成毛氏は話します。「国内においても大手企業を中心に、クラウドサービスを導入する事業所が増えています。加えて、AWSをはじめとするクラウドサービスは災害時にも強いため、各自治体や政府は、徐々に移行を始めるのではと考えています。いずれにせよ、クラウド化は次第に進んでいくためAWSはさらに普及するでしょう」

近年、アマゾンはデータベースを「オラクル データベース」から自社製のものへ切り替えたそうです。これにより、創業時と比較しておよそ100万倍ものデータを扱うようになったのだといいます。「5年後には、自社のデータベースだけでゼタ単位のデータを扱うようになるでしょう。アマゾンは、地球最大規模のデータベースをもつ企業になるはずです」と成毛氏は未来を予測します。

 

好ましい結果を生んだ事業には多額の投資を

アマゾンが展開している事業は多岐にわたります。アパレル・ファッション通販サイト「アマゾン・ファッション」、レジに人がいない店舗「アマゾン・ゴー」、オンライン調剤薬局「PillPack」などの企画・運営が近年の新規事業として挙げられます。また、新規事業に関連したアマゾンの動向に注目すると、ある特徴に気がつくようです。「多種多様な事業を展開し、好ましい結果が得られた事業には多額の投資をします。反対に結果が思わしくなかった事業からは即座に手を引くというのがアマゾンのスタイルです」。

アマゾンの飛躍的な成長に伴い多額の個人資産を得たべゾス氏は、個人で宇宙事業にも参入しています。2000年に設立された大手ロケット企業のブルー・オリジン社は、べゾス氏が所有する企業です。成毛氏によると、こちらもすでに業界内でトップシェアを誇る企業へと成長しているそう。

べゾス氏とアマゾンが成し遂げた偉業にはまさに驚くばかり。日本国内ではアマゾンのような革新的な企業は見受けられないものの、今後、飛躍的に成長する可能性がある事業が多々見受けられるようです。こうした事業を成功へ導く秘訣について、成毛氏はこう語ります。「まずは株式市場に対する価値観を変えるべきでしょう。どんどん投資をし、他社との差別化やコスト削減をはかるのが賢明です。15〜30年後には新しい挑戦が身を結びアマゾンに匹敵する企業が生まれるかもしれません」

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設立後20年間ほどで世界最強のネット企業へと成長したアマゾン。創業者のジェフ・ベゾス氏、ひいてはアマゾンの経営にはたしかな成功法則があることがわかりました。多くのビジネスマンにとって参考になる内容が多分に盛り込まれた講演となりました。

 

「サタデーレクチャー ~早稲田の杜の教養シリーズ~」では、今後もさまざまなゲストによる講座を開催予定です。今後のスケジュールについては以下をご参照ください。

早稲田大学エクステンションセンター サタデーレクチャー特設ページ

https://www1.ex-waseda.jp/saturday_lectures

 

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