「早稲田大学オープンカレッジ」では、年間2,000を超える公開講座が行われています。今回は、その一つである「体内時計健康法〜食べる時間と運動する時間を変えれば健康になる!〜」(以下、「体内時計健康法」)を取り上げます。体内時計の知識を身につけ、健康維持をはかることなどを目的とした講座です。講師を務めたのは、早稲田大学理工学術院の教授であり、「時間栄養科学研究会」の会長でもある柴田 重信先生。以前より、体内時計を考慮に入れた学問である「時間栄養学」と「時間運動学」を提唱しています。
本記事では、全4回ある講座のうち、第3回目の講義の様子をご紹介します。第3回目では、朝食を摂ることの重要性や時間帯ごとの栄養素の働きといった、日常生活で大きく役立つ内容がレクチャーされました。
早稲田大学理工学術院 柴田 重信教授
九州大学薬学部卒業後、同大学院博士課程修了(薬学)。九州大学薬学部助手、助教授、早稲田大学人間科学部教授を経て現職。東京農工大学客員教授。東京女子医科大学客員教授。健康科学における時間軸やタイミングの重要性を考慮した、時間栄養学や時間運動学を提唱している。日本時間生物学会副理事長。時間栄養科学研究会会長。近著に「Q&Aですらすらわかる体内時計健康法―時間栄養学・時間運動学・時間睡眠学から解く健康」(杏林書院)などがある。
「短鎖脂肪酸」をとれば、体内時計が動き出す!
近年、プロピオン酸や酢酸をはじめとする「短鎖脂肪酸」の健康効果が、知られつつあります。これらの「短鎖脂肪酸」を生かした乳製品などを、市場で目にしたことがある人は多くいるでしょう。
柴田先生によると、「短鎖脂肪酸」がもたらす健康効果として、体内時計の刻みの促進があるのだとか。「例えば、プロピオン酸を使った産物を摂ると、交感神経系が活発になり、体が朝であると認識します。つまり、体内時計が正常に動き出すということです」
体内時計の正常な動きに役立つのは「短鎖脂肪酸」だけでなく、タンパク質にも同等の効果が認められるようです。
トマトジュースに含まれる、リコピンやギャバに注目
柴田先生によると、「ギャバ」や「カテキン」といった成分を摂取する場合、時間帯に留意するといいようです。以下に、講義で紹介された成分と働きをまとめました。
1.リコピン
「朝食時、リコピンが含まれるトマトジュースを飲むと、日中もリコピンの血中濃度が高い状態が続きます。リコピンにはとても高い抗酸化作用があるため、紫外線を浴びることで発生した、活性酸素が除去され、生活習慣病の予防に効果があると考えられます。また、リコピンには、脂肪の分解に役立つ胆汁の分泌を促す効果があります」
2.ギャバ
「トマトジュースや胚芽米には、交感神経系を緩め、リラックスをもたらすギャバが含まれています。寝つきが悪いと感じた時、夜になっても気分の高ぶりが治まらない時は、トマトジュースを飲むといいと考えられています」
3.カテキン
「日本茶などに含まれるカテキンには、血糖値の上昇を抑える効果があります。カテキンを摂取するタイミングとしておすすめなのが、夕食時です。朝食時は血糖値が上がりにくく、反対に夕食時は血糖値が上がりやすいというデータがあります。食事による血糖値上昇を抑えたい方は、夕食時にカテキンが含まれたお茶を飲むといいでしょう」
朝食、昼食、夕食のどれにウェイトを置くか?
前述したとおり、夕食時は血糖値が上昇しやすくなります。夕食や夜食時の高血糖は脂肪に変換されやすいため、夕食時にたくさん食べた場合、肥満につながる恐れも。さらに、血糖値の大幅な上昇に伴い、血糖値を下げる働きをもつインスリンが、膵臓から多量に分泌されます。そうすると、膵臓に負荷がかかるため、やがて膵臓の働きが悪くなり、糖尿病などの疾患にかかるリスクがアップするのだとか。「肥満や糖尿病の罹患といったリスクを回避するためには、朝食時にたくさん食べ、夕食の量を抑えるようにするといいでしょう。太りにくくなるうえ、膵臓にも負担がかからないという研究結果もあります」と、柴田先生は話します。
また、1日の食事回数に配慮することも大切。1日の食事回数が少ないと、太りやすくなるというデータもあるそう。「1日1食しか摂らない場合、空腹の時間が長くなり、体がエネルギーを倹約し、蓄えようとします。つまり、食事によって得たエネルギーが、脂肪に変換されやすくなるのです」。1食で1日分の食事を摂るのではなく、最低でも2回に分けて食事をすることで、肥満を防ぐことができるそうです。
朝のタンパク質が、より良い人生を叶えるきっかけに
肉や大豆、牛乳などに含まれる、タンパク質。タンパク質にはさまざまな働きがあり、ユニークな研究成果も発表されています。講義で紹介された、タンパク質の働きと研究成果の一部をまとめました。
1、朝食時にタンパク質を摂ると、「寝たきり予防」になる
「加齢に伴い発生する、治療や介護・ケアを必要とする症状を『フレイル』、年齢を重ねているにも関わらず、心身ともに健康な状態は『ノンフレイル』といわれています。実際に行われた統計の結果から、『フレイル』の人ほど朝食時のタンパク質が足りていないこと、反対に、朝からしっかりとタンパク質を摂っている人は『フレイル』になりづらいことがわかっています」
2、筋肉量のアップにもつながる
「体重が60kgある人の場合、1日にタンパク質を60gほど摂るのが理想的です。朝、昼、晩に20gずつタンパク質を摂れば、筋肉量が増えることが分かっていましたが、近年の研究結果から、朝食で摂取したタンパク質が筋肉増強にもっとも役立つことが判明しました。また、夕食時にたっぷりとタンパク質を摂取しても、筋肉増強につながらないばかりか、腎臓を酷使してしまうことも明らかになっています」
3、朝食時にタンパク質を摂っている人は、活動的かつ意欲的
「朝食でしっかりとタンパク質を摂っている人は、筋肉量、握力、歩くスピードといった調査項目において、平均よりもいい結果を出しているというデータがあります。また、別の研究結果から、朝食時にしっかりとタンパク質を摂っている人ほど、勉強や運動が好きで、体力にも自信があること、人生において目標をもっていることなどが分かっています」
4、快眠の助けにもなる
「牛乳に含まれているタンパク質は、アミノ酸の1種である『トリプトファン』を作ります。『トリプトファン』には脳をリラックスさせる効果があるうえ、眠気を引き起こすホルモンである『メラトニン』を生成する働きがあります。朝、牛乳を飲むと、夜には『トリプトファン』と『メラトニン』が生成され、快眠につながると考えられます」
菊芋に秘められた、注目すべき効果
講義では、「イヌリン」という、あまり聞きなれない成分の働きも紹介されました。柴田先生によると、「イヌリン」は水溶性食物繊維で、チコリーや菊芋に多く含まれているそう。便秘改善をはじめとする健康効果が認められていることから、「イヌリン」のサプリメントも広く市場に出回っているのだとか。また、「イヌリン」にまつわるユニークな研究成果もあるようです。
「30名の成人男女を対象に、『イヌリン』を用いた実験を実施したところ、面白い結果が得られました。実験の内容は、30名のうち15名には朝食時に菊芋パウダーを、残りの15名には夕食時に菊芋パウダーを摂取してもらうというものです。1週間、菊芋パウダーの摂取を続けてもらった結果、朝食時に菊芋パウダーを摂取したグループにおいては、便秘の改善が見受けられました。また、朝食後の血糖値の上昇が抑えられたうえ、昼食後、夕食後の血糖値の上昇も緩やかになっていたことが分かりました」と、柴田先生。
ちなみに、朝食の内容が昼食や夕食後の血糖値上昇に影響する現象は、「セカンドミール効果」と呼ばれているそう。「つまり、朝食時に『イヌリン』のような水溶性植物繊維を摂取すると、昼食後、夕食後も血糖値の上昇を抑えられるでしょう。また、玄米など、植物繊維を多分に含む食材を朝食として摂ると、似たような効果が得られると考えられます」
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今回の講義で重点的に語られたのは、朝食の内容について。朝食時、意識的にタンパク質を摂ったり、リコピンやギャバといった機能性成分を摂ったりすることで、さまざまな健康効果が得られ、より良い生活を送れることが分かりました。
実生活ですぐに活きる内容が、たっぷりとレクチャーされた本講義。講義をきっかけに、日々の食事内容を見直すとともに、より「食」や自身の健康に興味を抱いた人は、多くいるはずです。
早稲田大学オープンカレッジでは今後も皆様の「まなびのニーズ」にお応えできるよう、多種多様な講座を豊富に展開いたします。ご関心のある方は、下記リンクをご参照ください。
https://www.wuext.waseda.jp