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小売業のカリスマ・大久保恒夫氏に聞く、モノを売るためのメソッド

2019年6月27日に開催したパイオニアセミナーでは、ユニクロ、無印良品、大手ドラッグストア、成城石井などを次々と成功に導いた小売業のプロフェッショナルである、コンサルタントの大久保恒夫氏を講師にお迎えしました。

 

かつてイトーヨーカ堂で小売の現場に沿った経営戦略を徹底的に叩き込まれたという大久保氏。あらゆるモノが飽和状態の今、小売業が勝つためのメソッドとは?当日のセミナーから一部抜粋して紹介します。

 


株式会社リテイルサイエンス
代表取締役社長大久保恒夫氏

1979年早稲田大学法学部を卒業後、イトーヨーカ堂に入社し、経営政策室経営開発部を担当。
その後、プライスウォーターハウスコンサルティングや財団法人流通経済研究所を経て、1990年にリテイルサイエンスを設立。ユニクロ、良品計画などをV字回復に導き、“小売再生のプロ”と称される。その後、経営戦略を手がけたドラッグイレブンや成城石井の代表取締役社長として歴任。成城石井は4期連続で増収増益となる。著書に『また一歩、お客さまのニーズに近づく』(かんき出版)、『利益を3倍にするたった5つの方法』(ビジネス社)、『実行力100%の会社をつくる!』(日本経済新聞出版社)などがある。

 

「小売」の原点を学んだイトーヨーカ堂時代


1980年代、大久保氏は大学を出て入社したてのイトーヨーカ堂の経営戦略に関わることになりました。その当時はちょうど高度成長期が終わりを迎え、世の中が「成熟期」にシフトしていた頃でした。店舗をたくさん作り、大量生産された商品を店に置いておけばどんどん売れた時代から、オイルショックなどの波を経て、需要よりも供給が上回り、小売の現場に沿ったプロセスや戦略論が求められていたといいます。

 

この時、経営陣から叱咤激励されながら、経営戦略について徹底的に叩き込まれていく中で、小売業の真価に気づかされたという大久保氏。

 

「小売業はお客さんに一番身近な存在。だからこそ、まずは我々がお客さんのニーズを把握して商品を調達・開発しないと、これからの小売業は利益が出ないということを教わりました」

 

そこで身につけた成功体験とスキルを武器に、10年後、大久保氏は小売業のコンサルティングを手がけるリテイルサイエンスを設立します。

 

ユニクロの経営改革を手がけ、営業売上60億円から1000億円へ

独立早々、大久保氏の快進撃が始まります。カジュアル衣料の製造販売で破竹の勢いで成長していたユニクロが、前年比80%と売上が落ち込んだとき、ファーストリテイリング代表取締役会長兼社長の柳井正氏から依頼され、経営改革提案を手がけることになりました。

 

「提案書には、これまでユニクロがしてきたことの正反対のことばかりを書いてしまったのですが、柳井さんは従来の慣習を打破することをむしろ肯定してくださって、翌週から提案書通りに改革を実行し始めました。結果、2年半で、営業利益が60億円から1000億円と約16倍にアップしました」

 

大手ドラッグストア「ドラッグイレブン」の経営者として経営改革

その後もコンサルタントとして無印良品の大幅な売上アップに貢献しますが、九州の大手ドラッグストア「ドラッグイレブン」と「成城石井」では、その経営センスと手腕が買われ、社長を引き受けることになった大久保氏。ここでも基本マインドとしてあったのは、「自社で商品を開発し、それをきちんとお客様に説明して売れば、着実に売れる」ということでした。

 

「ドラッグイレブン」では、店のコンセプトを“美容と健康の専門店”とし、主力商品としたのは、自社開発の化粧品。

 

「それまで所得水準が低い九州では、ディスカウントやポイント合戦をしないと売れないといわれていましたが、“美容と健康を実現する専門店”を育てるべく商品開発をし、それを売るための従業員教育に注力しました。『自社開発の化粧品なんて売れるわけがない』とさんざん言われましたが、まずは10名の美容部員を育て、各人が10人ずつ育てて100名を育成するステップでスタッフ教育に努めました。お客様には美容サンプルを渡し、販売ブースの傍をカーテンで仕切り、椅子を置いて試してもらったところ、大きな反響がありました。品質の高い自社開発の基礎化粧品4アイテム(セット価格5000円)だけで、大手コスメブランドのすべての売り上げを上回りました」

 

結果、マイナス15億円だった営業利益がたった2年間で15億円と黒字に転向したといいます。

 

社長退任後は、リーマンショックの影響もあって外食や中食の売上が落ち込んで業績が悪化し、利益が半滅していた成城石井の社長として就任することになった大久保氏。そこで手がけた施策によって、大きな成功を収めた経緯を振り返ります。

 

「経済が落ち込んでも、人々の『おいしいものを食べたい』という需要はあるし、成城石井が提供するクオリティでもう少し価格を下げられれば、絶対売れると考えました。そこで私が従業員に課したタスクは、『各地の生産者を訪ね歩いておいしいものを見つけて来なさい』ということ。物流や生産効率を高めるために商社を通さずにフランス・ボルドーに行き、ぶどう畑やセラーで直接ワインを買い付けました。このとき、『化粧品ならまだしも、食品で粗利を高めることはできない』と周囲からは言われましたが、こだわりのあるさまざまな産地を見つけ出し、粗利50〜60%の商品を数多く創り出すことができました。やっているのは、いい仕入れ先を探して自分で運ぶというシンプルなことですが、これまで誰もやっていなかっただけなのです」

 

経営改革に必要なのは、安売りではなく、商品開発力で価値を生むこと

これまでの経営施策からもわかるように、大久保氏が経営改革を手がけるときのモットーは、売上が上がらないときこそ値段を下げたり経費削減したりするのではなく、しかるべき経費を使って抜本的な改革に取り組むスタイル。

 

「経費削減をすれば瞬間的に営業利益は上がりますが、長い目で見るとすぐジリ貧になります。こんなときこそ、お客さんのニーズである“こだわりのあるものを食べたい”“今までにないものを食べたい”“きれいになりたい”“健康になりたい”といったことに目を向けて、むしろ経費を使います。実はお客さんの満足いただけるものを売っている小売は少ないのです。モノが売れないときこそ、“商品開発力”“接客教育”“情報システム”を強化して価値を生むことが必要なのです」

 

売上が落ち込むときこそ、従業員教育を強化し、現場の実行度を上げる

成城石井での改革では、商品開発力を高めるために、バイヤーを2倍に増やしたという大久保氏。その理由について次のように見解を語ります。

 

「社長就任後、3カ月でリーマンショックが起きて売上が落ち込むことを想定し、まず考えたのは、いっそう従業員教育を強化しようということで、それまでの4倍の教育費をかけました。なぜならお客さんに満足いただけるために商品の価値を高めていくのは人だからです。現場には、多くのことを指示せず、『ひとつでいいからやっておいて』」とよく言っています。上司としては数多く高度な指示を出した方が仕事した気になるけれど、それでは人は動かず、実行度が高まらないものです」

 

お客さんが来ないときこそ、基本に忠実に

小売業はお客さんともっとも身近な存在であり、固定客を増やすために、ポイントカードを配る店も多くあります。かつて大久保氏もドラッグイレブンの経営改革を手がけていた頃、同様の施策を講じたところ売上は一向に上がらなかったといいます。

 

「お客さんが来てくれない理由としてもっとも多いのは、接客中に嫌な思いをしたから。だからこそ固定客を増やすためには、基本の徹底が大切なのです。ある苦情の多い店舗で3カ月程、挨拶を徹底したところ、苦情が半減。このときのポイントは、会社の命令ではなく、現場がいかに主体的に取り組めるか?ということです。みんなで相談して、どんな店にしたいか?ということを考えた上で挨拶を徹底し、それによってお客さんに喜んでもらい、固定客ができて雰囲気がよくなるという流れを作ることが重要です」

 

人をいかに育てるか?

衣料品から食品、日用雑貨まで幅広いジャンルの小売を扱ってきた大久保氏。「そもそもなにが売れるかなんてやってみなければわからない。だからこそ、たくさんトライ&エラーを繰り返すことで、お客さんのニーズに合った売場に変わる」ことがモットーだといいます。

 

実はこれは、どんな事業にも当てはまることであり、人を育てる上でもこうした仮説と検証を繰り返すことが重要だと語ります。

 

「人は実際に経験して、『なるほど』と思ったときに成長するので、検証はきっかけにすぎません。知識としてはわかっていても、実行はなかなかできないものです。小売業でいえば、どの商品を企画すればどれだけ売れるか?ということを考えて経験の積み重ねの中で成長していきます。だから、失敗が多い人ほど優秀。すべて成功する人なんていません。僕自身も数多くの失敗をしてきましたが、うまくいかなかったということが検証できただけのこと。“どんどんやってどんどん失敗しろ。また新しいことをやればいいじゃないか”が、人を育てていくためのモットーです」

 

 

売上が落ち込むと、人件費などのあらゆる経費を削減しがちですが、それは一時しのぎであって、抜本的な解決にはならない。だからこそ開発力や従業員教育に注力すべきであるという話は、どんな事業にもあてはまる話です。トライ&エラーを繰り返すことで成功率を高めるという姿勢には、ベンチャースピリットが感じられました。

 

小売業のみならず、あらゆるビジネスパーソンに響く、気づきの多いセミナーとなりました。

 

パイオニアセミナーは年間通じ、定期的に開催しています。今後の詳細は、こちらをチェックしてください。

https://wasedaneo.jp/waseda/asp-webapp/web/WNewsDetail.do?page=125

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