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大学院で再び学び、次のポジションを自ら切り拓く!

今回紹介するのは、早稲田大学 大学院政治学研究科修士課程で学んだ菅原雄一さん(写真左)と指導教員の栗崎周平准教授(写真右)です。

菅原さんは2010年に早稲田大学政治経済学部を卒業後、英ブラッドフォード大学で紛争解決学(MA in Conflict Resolution)修士学位を取得。日本に帰国後、外務省の経済協力専門員としてルワンダおよびブルンジの開発協力を担当しました。さらに2012年には、在スーダン日本大使館に政務担当として派遣され、2015年にUNMISS(国際連合南スーダン派遣団)の一員として情報分析官に着任。その後、さらにスキルアップするため、2017年に早稲田大学大学院政治学研究科修士課程に入学し、内閣府に勤務しながら通い続け2018年に修士学位を取得しました。

国際紛争における情報分析のプロフェッショナルである菅原さんが社会に出た後、あらためて母校・早稲田大学の大学院で学ぶことを志した経緯について、恩師の早稲田大学政治経済学術院の栗崎周平准教授を交えてお話を伺いました。

 

研究テーマが実務に直結した理想的なケース

――菅原さんは、どんなことがきっかけで国際紛争の解決に関心を持たれたのでしょうか。また、あらためて大学院で学ぼうと考えたのは何故でしょうか?

菅原さん:学部学生の頃に、東ティモールでのスタディツアーに参加して、紛争直後のできたての国に教授たちと一緒に行って、現地で活躍するNGOや国連の職員にインタビューする機会があったのがきっかけです。「こんな世界があるんだ」と興味を持ちはじめました。

イギリスへの大学院留学の後、外務省の経済協力専門員としてキャリアをスタートさせ、その後、一貫して紛争後地域に関する仕事に携わってきました。それまで紛争終結後の平和構築のための支援について理論として学ぶ機会はありましたが、実際の現場では、目の前で紛争が起きている中で「政情分析せよ」というミッションが与えられます。次第に「自分が書いているレポートはちゃんと政情分析になっているのだろうか」と、どこか物足りず、不安に思うようになりました。

つまり、日々の仕事の中から、最新の学術的な分析をきちんと理解し、活用できるリテラシーが自身に不足していることを自覚したのです。そこで、今後も専門家として生きていくために、再び大学院で学ぶことによって、必要なスキルを身につけることにしました。

さまざまなキャリアを経てから早稲田大学大学院 政治学研究科修士課程で学び、6月から国連本部で勤務している菅原雄一さん。

 

――栗崎先生の入学当初の菅原さんへの印象はどのようなものでしたか?

栗崎准教授:菅原さんの場合、社会でキャリアを積んであらためて大学院で学びなおすケースとしては理想的なパターンでした。入学直後から具体的な研究を進められるほど、実務経験をもとにした研究計画が緻密に作成されていたからです。通常、修士課程の学生の場合、何を研究するかということを入学後に考える、あるいは考え直すケースがほとんどです。その点、菅原さんの場合、順当に研究が進めば通常2年のところを1年で修了できるのではと思うほど、研究テーマが具体的かつ明確でした。実際には1年とはいきませんでしたが、標準よりも半期短い1年半で修了となりました。

 

――どんな研究テーマだったのですか?

菅原さん:国連PKOの早期警戒の有効性を統計分析を用いて検証するものです。つまり、これまで私が紛争の現場でやってきた仕事が有効に機能していたかどうかを、データに基づき確かめるというのが研究目的でした。入学前まで統計分析の授業を受けたことがなかったので、大学院では一から学ぶ必要がありました。入学前に様々な大学院を比較しましたが、早稲田大学の大学院政治学研究科は基礎的な分析手法を身につけることが前提となっているカリキュラムなので、理想的でした。

栗崎准教授:分析手法は、それ単体を学ぶことは目的ではなく、応用することが肝要です。実社会では、実践を通じて学んでいくのが基本です。各手法の専門家がいる修士課程は社会人学生にとって、ある意味で、インストラクター付きで実践に近い学習ができるところが大きな意味をもつと思います。ただし、今教えていることはそのままでは10年後には役に立ちません。どんどんアップデートしなければなりませんが、修士課程で学んだ「分析手法の学び方」は菅原さんにとって、きっと今後のキャリアにおいても、血や肉となる学びとなったのではないかと思います。

菅原さん:おかげさまで、ベースとなるリテラシーを身につけることができました。新しく出てきた計量分析に基づいた分析結果をどういう見方で解釈したらいいかということは、教えてもらわないとわからないことで、そうした点を学べたことは、今後にとってとても有意義であったと思っています。

 

早稲田大学政治経済学術院 栗崎周平准教授。博士(カリフォルニア大学ロサンゼルス校)。テキサスA&M大学政治学部助教授、ハーバード大学ジョン・オーリン戦略研究所国家安全保障フェローなどを経て現職。専門は国際政治学、数理政治学で、大学院政治学研究科では数理分析関連の科目も担当している。

 

――菅原さんは内閣府に勤めながら大学院に通われていましたが、今後はどのような仕事をしたいと考えていますか?

菅原さん:6月から、すべての国連PKOをとりまとめる国連本部の平和活動局で勤務します。具体的には、PKO活動の有効な事例を吸い上げて、ほかのミッションやPKOにも還元する仕事です。外部のシンクタンクや大学などと密接に連携しながらする仕事のため、最新の分析データが読めないと仕事になりません。その点でも大学院で学んだことが直結して生かせる仕事です。

栗崎准教授:おそらく国連本部の中でも中核の部署のひとつです。菅原さんの場合、国連組織でポジションを得るために必要な条件とスキルを理解し、それらを獲得することを目的として再び大学院で学ぶことを選んだことが功を奏したと思います。もちろん、本人の能力、熱意が重要であることはいうまでもありません。

 

 

社会人が意識して学ぶことの大切さは?

――実際に再び大学院で学んだ感想はいかがですか?

菅原さん:当初想定していた内容をちゃんと学べたし、本当に行ってよかったと思っています。入学当初は見えなかったこともたくさん見えてきて、視野が広がりました。

 

――栗崎先生のゼミには、学士課程からそのまま修士課程へ進んだ学生と、社会人学生の両方がいるかと思いますが、菅原さんがいることで、全体への影響は感じられましたか?

栗崎准教授:ゼミにかぎらず、クラスにはそれぞれ個性があって、雰囲気が大事だと考えています。その点、菅原さんの仕事の進め方が効率的だったことで、ゼミやクラス全体の雰囲気が変わったような気がします。一度社会人経験がある人は、だらだらと仕事をしない傾向にありますね。

 

――菅原さんは再び大学院で学ぶとき、迷いはありましたか?

菅原さん:大学院に入るのを検討していた時点では、このまま仕事を続けていくのもいいかなという思いもありました。でも、時間をとって学びなおしができるのは今しかないと考えて決意しました。

 

――仕事仲間などまわりのリアクションはいかがでしたか?

菅原さん:当時の私の職場には外国人しかいなくて、引き止められるどころか、「それはいいことだね」と好意的に受け止められました。私にかぎらず、みんな時間さえあれば大学院に戻って学びなおしたいという人が多かったです。

栗崎准教授:菅原さんの仕事の環境では、修士学位を取得済みであることが前提とされることがほとんどです。ディレクターレベルともなると、博士号を持っているような人も多い組織文化です。

 

――これからの時代に主体的に活躍していくためにも、大学院に進学したい学部学生や社会人の潜在的なニーズは多いと思われます。最後に、そのような方々へお二人からメッセージをお願いします。

栗崎准教授:学部学生については、本当は大学院に行きたいと言っていた人が、「とりあえず就活してみる」という選択をしたら最後、就職後は企業が用意してくれる制度以外ではなかなか修士課程に進めないのが現実だと思います。企業もまだまだ大学院教育に理解がないケースが少なからずあるようです。社会人については、例えば日米を比較すると、アメリカの場合、大学などで身につけた専門性や研究成果に対して社会的にリスペクトがあります。片や日本では、大学の教育・研究について大きくは意義を認めていません。それが、海外から帰国して感じたカルチャーショックでした。そんな背景があることを思えば、日本の社会人が大学院で学びなおしをするとき、モチベーションや学位取得後の待遇も含めて、海外とは大きな違いがあることは想像に難くありません。

しかしながら、今一度、自分が何をしたかったのかを立ち止まって考えてみてほしいのです。よく「お金がない」ことを言い訳にする人がいますが、キャリアやお金は意思のあるところに後からついてきます。時間が経てば経つほど、その後のチャンスの幅や機会はどんどん小さく、少なくなるものです。

就職して、日本企業で必死に自分の足元を固めている人は多いと思いますが、学ぶことで一気に視野が広がるし、再び企業に戻るにしても、より良いポジションで戻って行けるはずです。

 

菅原さん:民間企業に勤めている同級生を含め、機会があれば学びなおしたいという人は沢山いると思います。友人から「大学院で学びたい」「留学したい」といった声をよく聞きますが、実際にはほとんどの友人が会社を辞められないのが現実です。

ひとたび企業に就職した人たちと話をすると、生活が不安定になることへの危惧から辞めることへの抵抗感を強く持っているのだろうなと感じます。でも、そもそも日本式の新卒採用で働いたこともなく、同期という存在が1人もいなかった私からしてみると、次のポジションを獲得するため、またさらにその次のポジションを見越して動き続けるのは当たり前のことです。

そうした主体的なキャリアの築き方は、一見不安定なようですが、実は自分の人生を計画的に、かつ思いのままに切り拓くことができるという点では安定していると言えます。明確に次のポジションまで見据えることができているのであれば、「今のままでいいのかな」とくよくよ悩むよりは、一歩を踏み出した方が、今後の人生をすっきり生きられると思います。

 

菅原さんのお話からは、自身の人生を大切にして、主体的にキャリアを築く堅実さ力強さ、思い通りに生きている人に特有の清々しさが感じられました。また、お二人の対話には指導教員と学生という枠を超え、グローバルな舞台での経験を踏まえた共通の価値観を見出すことができました。

今こそ本当にやりたかったことに立ち返り、大学院等で学ぶことによりスキルを磨き、次のキャリアを自ら切り拓いてみてはいかがでしょうか。

早稲田大学の学部・大学院等の情報は、こちらよりご覧ください。

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