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サタデーレクチャー ~早稲田の杜の教養シリーズ~ 「21世紀の経済風景〜グローバル化のゆくえ〜」 開催報告

早稲田大学エクステンションセンターでは、注目の研究者や専門家をお招きし、さまざまなテーマを取り上げる「サタデーレクチャー ~早稲田の杜の教養シリーズ~」を継続して開催しています。

2019年1月26日には、同志社大学大学院の浜矩子教授が登壇。「21世紀の経済風景〜グローバル化のゆくえ〜」をテーマにご講演いただきました。テレビなどでコメンテーターとして注目を集める浜教授の講演とあって、130人もの方々が参加しました。その模様を一部抜粋の上、ご紹介します。

 

同志社大学 浜矩子教授

一橋大学経済学部卒業後、三菱総合研究所主席研究員を経て、1990年から1998年まで同社初代英国駐在員事務所長としてロンドンに勤務。帰国後は、同志社大学大学院で教鞭をとる傍ら、経済動向に関するコメンテーターとしてメディアに出演。主な著書は、『グローバル恐慌–金融暴走時代の果てに 』(岩波書店)、『スラム化する日本経済 4分極化する労働者たち 』(講談社)、『2009-2019年 大恐慌 失われる10年』(フォレスト出版)など多数。

 

現在の経済風景を読み解く3つのキーワード

浜教授が冒頭で示したのは、次の3つのキーワード。現状の経済を示すこれらのキーワードについて、解説されました。

1.ディグローバル化(deglobalization)

“ディグローバル化”を直訳すれば、“非グローバル化”ですが、むしろ“破グローバル化”と置き換えた方がしっくりくると指摘する浜教授。

グローバル化のきっかけとなったのは、1990年に資本主義の西ドイツと社会主義の東ドイツを隔てていたベルリンの壁の崩壊であり、以降、国境なき時代の幕開けがやって来たと説明します。

「鉄のカーテンがなくなり、シームレスに人・モノ・金が行き来するようになったことで、グローバル・サプライチェーンが浸透していきました。原材料はアメリカで調達し、加工は日本、組み立ては中国、そして世界中の市場に商品が出回るといった、国をまたいでモノを生産するネットワークが構築されました。それにともない、人も金もこれまでにないスケールで世界を飛び交うようになりました。」

2008年にアメリカの投資銀行リーマン・ブラザーズが経営破綻し、連鎖的に世界規模の金融危機が起こったように、グローバル化は一つの企業が世界の経済に影響を与える状態を作り出します。グローバル化によって貧困や格差社会が進行してきた側面もある中で、現状を次のように捉える浜教授。

「今年はグローバリゼーションが始まって20年目となりますが、この現象は誰にも止められません。ところが、ここにきて突如、“非グローバル化”の波が来ているのです。それを体現しているのが、トランプ大統領の“アメリカ・ファースト”を掲げるアメリカ第一主義であり、安倍首相が掲げるアベノミクスなのです。」

特に、トランプ大統領の動きは明らかにグローバル化を破壊しようとするものであると指摘します。トランプ大統領と安倍首相の動きについて、環太平洋地域の国々による経済の自由化を目的とした、多角的な経済連携協定「TPP」を例に、次のように分析しました。

「アメリカがTPPから離脱したことから、よその国はどうでもいいというスタンスが見て取れます。一方の安倍首相は、TPPをプロモーションしたり、地球を俯瞰したりしていますが、これは“国境を超えた絆の守り手”になりたいからではありません。そこには、自分の影響力の範囲を広げたいという下心が見え隠れし、21世紀の大東亜共栄圏を作りたいという野望の元でやっているということが透けて見えます。グローバルな覇権を目指しているのです。」

さらに浜教授は、安倍首相が2015年に渡米したときの発言がはらむ危険性について指摘しました。

「安倍首相は、『TPPは中長期的に経済効果も戦略的価値もある』と発言していますが、これはかなりタブーな発言です。なぜなら戦後、各国で結ばれた通商協定には、これまで列強諸国がしてきたような領土の拡張や天然資源の独占、自国製品を売りさばくための広域市場の囲い込みといった戦略性を持たせない決まりがあるからです。“戦略性”を明言すれば、それはもはやグローバルで平和な関係ではなくなってしまいます。」

2.相互主義(reciprocity)

現在、各国の貿易においては、「互恵主義」が原則にあり、世界貿易機関(WTO)の基本理念にも、「自由」「無差別」「互恵」が掲げられていて、すべての貿易相手との間で、お互い恵みを与え合うものとされています。

ディグローバル化の問題性を考えたときに外せないのが、「相互主義」であると浜教授は説明します。「相互主義」が幅をきかせていた第一次世界大戦終結から第二次世界大戦勃発までの戦間期を例に、トランプ大統領のスタンスに着目しています。

「この頃は、すべての国々が『自国は絶対に損はしないぞ』というスタンスでした。これは2国間主義であり、1対1だからこそ、損得が確認できるわけです。今これに一番こだわっているのが、トランプ大統領であり、戦間期のスタンスに逆戻りした、戦争に至る危険性をはらんだ通商理念ともいえます」

浜教授の解説により、トランプ大統領のスタンスは、「みんなで全方位的に利益を分け合う」という戦後の通商理念である「多国間互恵主義」に反するものだということが理解できます。戦争への道筋にはならない「多国間互恵主義」と自国の利益を主張し合う「相互主義」は、180度真逆な理念だけに、今後注意深く報道を見ていくべきだと浜教授は指摘しました。

3.キャッシュレス化(cashless)

昨今日本では、中国などの他国と比べるとキャッシュレス化が遅れているといわれています。このため、2020年の東京五輪に向けてキャッスレス・システムをもっと進めるべきだという論調があることに、疑問を述べる浜教授。

「“キャッシュレス化”は物理的な金銭を使わず、キャッシュカードで決済することを指します。電子マネーは、実は現金決済であり、物理的現金が電子的現金に変わっているだけで、あくまで現金取引です。正しくは“電子現金化”であり、ごまかされないためにも、実態を正確につかんだ言葉を使うべきです」

また、電子現金化の大きな問題として、「かならず記録が残ることから、極めて追跡が容易」であり、「所有性が希薄」という2点を指摘します。

「トレーサビリティ(追跡性)が高いので、安全ともいえますが、それは悪いことをしている人に該当する話。善良な市民の支払いのやりとりが匿名性なくすべて追跡できる金融世界に引き込まれてしまう問題点があります。また、物理現金の世の中では、たとえば経営破綻しそうな銀行があったときに、銀行預金から引き出して手元にお金を所持できるというメリットがあります」

さらに今後、アメリカのように戦略的に自国を最優先する国家主義が広まり、国民の権利を踏みにじってでも国の強さを前面に出す状況になった場合の危険性についても言及します。

「我々の資産が電子マネーによって知らぬ間に国家に吸い上げられる可能性もあるわけです。日本人はまじめなので、世の中に遅れをとることを恐れますが、個人金融規模も世界一の資産大国だけに、問題点がクリアになるまでは焦ってキャッシュレスを進める必要もないと考えています。世界でも有数の資産大国である日本が、物理現金主義を示せば、それに倣う国も多いかもしれません」

もう1点、注目すべきこととして、現在、中央銀行によるデジタル通貨の発行が議論されていることを指摘する浜教授。

「国民全員が中央銀行に口座を持つことになれば、資産状況がすべて国に丸見えになってしまいます。単にシステム化が遅れているからという理由でキャッシュレス化を進める前に、きちんと背景を見極めて論じないと、禍根を残す結果になりかねません」

 

本来あるべき理想的な経済風景とは?

ここで、「今後、どんなかたちでグローバル化が進めば世界は健全になるのか?」という受講者からの質問に、浜教授は次のように答えました。

「本来あるべき姿のグローバル化が実現すれば、人類にとって住みやすく調和のある経済社会になると思います。“お互いさま”、“おかげさま”の構図をみんなで分かち合い、支え合うスタンスが世界津々浦々に浸透すれば、究極的な平和をもたらし、戦争が起きない社会になるでしょう。自国の利益ばかり追求すれば、貧困格差が拡大します。グローバル化の波を生かすも殺すも、人間の良識次第。それくらい私たちにとって重要なテーマだと考えています」

また、「現状の経済状況がいつまで続き、今後、日本企業の世界拠点での立ち位置はどうあるべきか?」という質問に浜教授は、トランプ大統領の進退に関わる次の大統領選がひとつの節目になると指摘した上で、「企業」の語源を例に、わかりやすく解説しました。

「2020年代が節目となり、その後の20年がグローバル化をまともな方向に巻き返す契機となるでしょう。日本企業はそこで、政治の下心や国家主義の方向感に合わせることなく、“グローバル魂”を失わないスタンスが重要です。“企業”の“企”は、“くわだて”と読み、“くわだち”、“くわだつ”の意味があります。企業は少しずつ高望みし、背伸びをしながら次々新しいものを生み出していく存在であることを、実によく表している言葉です。もうひとつの意味として、“企み”となると、“悪だくみ”といったニュアンスに変わります。日本企業は“企て”から“たくらみ”に転じることなく、“魂ある企ての集団”として立ち振る舞っていただきたいと願っています」

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身近なお金の話から世界規模の経済の動き、そして今後の日本企業、延いてはビジネスパーソンがとるべきスタンスに至るまで、視野が大きく広がり、深い洞察を得られる講座となりました。

「サタデーレクチャー ~早稲田の杜の教養シリーズ~」では、今後もさまざまなゲストによる講座を開催予定です。次回以降は以下の通り開催を予定しています。

2019年5月18日(土)13:00-14:30「ラグビーワールドカップ2019日本大会の展望」 清宮 克幸氏 (ヤマハ発動機ジュビロ前監督)・ 村上 晃一氏 (ラグビージャーナリスト)⇒ 詳細はこちら

2019年6月1日(土)13:00-14:30「聴いて味わう『源氏物語』」 林 望氏(作家、国文学者)⇒詳細はこちら

 

 

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