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【シリーズ 越境学習】丸紅の人事制度に見る、“越境”がもたらす効果とは?

2018年4月から、『社外人材交流』制度で社内外の人の行き来を活発化させることなど、より働きがいのある会社になるための活動に取り組んでいるのが丸紅株式会社です。同社には、近年人材育成の現場で注目を集めている、組織の枠を超えて様々な経験や学びを得るための“越境学習*”の要素を持った様々な人事制度が用意されています。

 

今回、人事部企画課長の細川悟史氏に、同社の人材育成や“越境学習”の先進的な取り組みについてお話を伺いました。越境することによって自分がいる組織を客観的に見たとき、どんな気づきや学びが生まれるのでしょうか?

 

*越境学習:所属する組織の枠を自発的に“越境”し、自らの職場以外に学びの場を求めること。社外でのインターンシップや、副業、大学等での学びなどその形は様々で、職場や自宅以外の第三の場で得た経験や学びで自らのキャリアや組織を考え直し、創造的な仕事へとつなげていくことが期待される。

聞き手:WASEDA NEOプログラムプロデューサー 酒井章

写真:左/酒井、右/丸紅株式会社人事部企画課長細川悟史氏

 

 

付加価値を創り出す組織を目指して

 

――現在、丸紅では社外との人材交流を積極的にされているということですが、どのような目的で実施しているのですか?

 

もともと取引先の企業様などとの人材交流は、各営業組織の主導で行われていました。2018年4月からはこれに加え、経営主導の人材交流にも積極的に取り組んでいます。異なる業界での経験を通じて多様な価値観や発想、知見、人脈を得るなど、これまでにない形でリーダー人材を育成しようとする取り組みです。丸紅からは20名弱の人材を様々な企業・団体に派遣しています。

 

――貴社が最近打ち出している組織の枠組みを超える一連の人事制度・施策はいつからどのような背景で始まりましたか?

 

2018年4月から一斉にスタートした取り組みです。背景には、世に言われている、IT社会をベースにしたデジタルトランスフォーメーション、事業環境の非連続的変化に対する強い危機感がありました。様々な商品分野のビジネスをグローバルに展開していますが、担当するモノやサービスを売ることにとらわれすぎて、変化している社会やお客様の本当の課題を見過ごしてしまっているのではないか、ニーズを先取りし変化を創り出すようなビジネスを提案できていないのではないか、という課題意識です。

そこで、変革の方向性として、丸紅グループの在り姿『Global crossvalue platform』を示しました。社会やお客様の課題を先取りして、事業間や社内外、国境などあらゆる壁を突き破って社会やお客様に向けてソリューションを創出できるようになりたい。そのために、グローバルにさまざまなリソースを持つ丸紅をひとつのプラットフォームと捉えて、当社グループの強みや社内外の知、ひとり一人の夢や志など、さまざまなものを縦横無尽にクロスさせて価値を創造できる存在になっていこうとするビジョンです。

 

背景には、これまでのビジネスモデルが通用しなくなるという危機感

 

――商社の在り方が大きく変わりつつあるということを御社の代表も発信されていますが、商社はどのように変わってきているのか、詳しくお聞かせください。

 

時代は大きな転換点を迎えています。生き残りをかけた変革を迫られているという危機感はどの会社も持たれていると思います。

 

当社でよく言われているのは、今やっていることをそのまま続けていると、10年後にはおそらく生き延びられないということです。変化はチャンスといいますが、最早そういった次元の話でなく、今の変化に対応できなければ存続できなくなるという非常に強い危機感です。

 

変革に向けたスローガンは「既存の枠組みを超える」です。従来の縦割り組織を超えて事業を創造していく発想や、同質性の高い集団思考を脱して多様な見方や価値観を取り込んでいく姿勢、社員一人ひとりが挑戦に積極的になるためのマインドセットの切り替えといったことが必要不可欠だと考えています。

 

――その変革を目指して生まれたのが、『CDIO/デジタル・イノベーション部の新設』と『“人材”ד仕掛け”ד時間”の施策』でしょうか。

 

そうです。2018年4月に、全社横断でデジタル技術の活用とイノベーションを推進する組織体制として、CDIO(Chief Digital Innovation Officer)とその直下に『デジタル・イノベーション部』を新設しました。

さらに、米国・シリコンバレー、イスラエル・テルアビブ、中国・深センなどに駐在員を増員し、海外からの情報収集機能も強化しました。

 

リーディングカンパニーへの出向で得た気づきと創造

 

――“人材”“仕掛け”“時間”の三つの軸から成る施策についてお聞かせください。

 

この施策は、デジタル・イノベーション部と経営企画部、人事部が協業し企画したものであることが特徴です。会社の今後の在り姿が定まったところで、組織や部署の壁を突き破り、持ち得る知恵を出し合って何ができるのかを考えるところからスタートしました。

 

議論を重ねる中で、イノベーションをもたらす柔軟な発想をもつ多様な“人材”を育み、アイデアをふくらませる機会や発信する場を提供することにより思考や行動を喚起する“仕掛け”、さらにはそれを実行するための“時間”の確保も必要だと考えました。

 

“人材”については大きく二つあります。一つ目が『丸紅アカデミア』です。全世界の丸紅グループ企業の中から選抜された25名が集まり、丸紅グループの現状や社会課題に向き合い、「丸紅をプラットフォームとしてイノベーションを起こすとしたら何ができるか?」について議論し、提案します。いわゆる研修とは違い、実際にイノベーションを創出するためのタスクフォースのような実践を通じて将来のリーダー人材を養成していくものです。

 

二つ目が冒頭に申し上げた『社外人材交流プログラム』です。ずっと同じ会社・組織にいると同じような発想しか生まれなくなりがちです。そこで、社員を社内外に行き来させることで、新しい発見や発想を生み出しやすくするものです。グローバル展開する金融機関、メーカー、コンサルティングファームなどのリーディグカンパニーと連携し、将来のリーダー候補となる人材を相互に1~2名ずつ1~2年の期間で派遣し合う取り組みです。

 

――『丸紅アカデミア』はタスクフォースとして国をまたいで活動しているのですか?

 

参加者は日本をはじめ、欧米、アジア、中国などの9カ国から、シンガポールや東京に集まり活動しています。シンガポールで経済開発庁の副長官を務めていた方を座長に迎えたこともあり、シンガポールの起業家や有識者とのディスカッションを実施するなど、グローバルな視点での様々な示唆が与えられる仕掛けが施されています。国を超える学びの実践です。

 

そのほかにも、世代や組織を超えた繋がり、学びを生み出す取り組みとして、『トライアングルメンター』という制度もあります。新入社員1人に対して、配属された組織とは異なる部署、異なる世代の社員2人がメンターとなり成長を促す制度です。

メンターとなる中堅やベテラン社員も、最近の若い世代の動向や志向を知ることができるなど、相互にメンタリングを受けられる仕組みです。2018年から試験的に始動したのですが、一定の効果が出ているので、今後も継続する予定です。

 

――フラットな関係で刺激し合える優れた取り組みですね。実際にどのような事例がありましたか?

 

互いに「今までそんなことは意識したことがなかった」というような、新しい発見や驚きがあったと語る社員が多いです。たとえば、あるベテラン社員は、「コミュニケーションは“フェイスto フェイス”がベスト」と思っていましたが、若手社員とのメンタリングによって「場合によってはSNSの方がベター」ということを知り、新しい発見だったと語ってくれました。

一方で若手社員が新しい部署に配属されたときの戸惑いをメンターに相談すると、アドバイスとともに具体的な解決策を聞くことができたそうで、世代を“越境”してお互いに学び合えているようです。

 

――他にも興味深い“仕掛け”もあるようですね。

 

『ビジネスモデルキャンパス』と名付けたプラットフォームを有しています。これは、丸紅が持つ300ある主要ビジネスモデルについて全社員に公開しているものです。会社が持つお客様やビジネスモデル、ソリューションを検索できれば、組織を超える横のつながりを拡張しやすくなります。お客様にどんなソリューションを届けられるかを考える基盤となるような社内オープンプラットフォームです。

 

――『ビジネスプランコンテスト』の成果はいかがですか?

 

当初の予想を大きく上回る新規事業の提案が、世界中から160件ほど集まって驚きました。10数件に絞られ、最終選考を通ったアイデアについては、調査研究費予算もつけ、応募者を新規事業の専任もしくは兼務担当として、テストマーケティングを開始する予定です。最終的に稟議を通じて事業化するかどうか決めていくプロセスを控えています。

 

――三つ目の“時間”についてはいかがでしょうか?

 

『15%ルール』という制度を導入しました。社員一人ひとりの自由意志によって、就業時間の15%を担当分野かどうかに関わらず、丸紅グループの価値向上に資する活動に充てることができる制度です。導入から8ヶ月で総合職の4人に1人が利用するほどに広がっています。直属の上司には承認されないかもしれないけれど、もしや?と案件を温めているケースもありました。社内でチームを組んでいるケースも見られます。

ただ、この15%ルールが、結果として「115%ルール」になってしまうことは本意ではありません。15%の時間を捻出できるよう、無駄な仕事を圧縮したり、社内の提出資料や会議を削減したり、活動にも注力しています。

 

――2018年4月からのさまざまな新しい取り組みを通じて、現時点で感じていることは他にありますか?

 

導入前は、新しいことは主に若手社員の興味を引くものだと思っていましたが、蓋を開けてみたら幅広い世代から手が挙がりました。チャレンジ精神に年齢は関係ないとあらためて実感しました。

これらの新しい取り組みでは、ヨコの拡張(組織を超えた連携による新事業の創出や新規分野への参入)の推進が強調されがちですが、それと同じくらいタテの進化(商品分野の事業強化)も引き続き重要で、今まで我々が築いてきたアセットを更に強くする人材も必要です。それらをいかに両立させていくかが課題と考えています。

 

――社会全体でも、終身雇用や年功序列という考え方は変わってきていますが、貴社のお考えをお聞かせください。

 

組織に多様性を確保していくという点では、市場からの人材の獲得はもちろん、豊富な経験を持つ人材を輩出していくという両面の人材フローが必要と考えています。特に後者は、人生100年時代における生涯キャリアを支援していく上でもとても重要な課題です。

地方創生、中小企業の事業承継へのソリューションにも繋がるものとして、人材ニーズのある企業へ当社の経験豊富な社員を派遣する取り組みに注力しています。2018年10月から地銀8行へ社員を派遣し、各地の有力企業とのビジネス機会と人的連携の機会を追求しています。

この他、内閣府のプロフェッショナル人材事業へ参画し、地方中小企業との人材マッチングも推進しています。また、中小企業の事業承継を手がけるPEファンドとの連携によって、投資先への経営人材の供給も模索しています。

そのようなパイプを通じて、会社を越えて人材のネットワークが広がり、また新たなビジネスの機会が生まれていくことも期待しています。

 

――そうした人材の取り組みを通じて、効果をどのように感じられていますか?

 

これまでの延長線にないものだからこそ得られる新たな気づきや学びがあります。新しい環境に接してモノの見方が変わり、思考や行動が変わっていくといったことです。

例えば、『社外人材交流』では、社外のリーディングカンパニーに出向した社員の多くは、「“次の社会を自分たちが作っていく”という、業界トップならではの強い目的意識や使命感がある」と口を揃えます。また、社外に出ることで、外から丸紅の良いところや悪いところも見えてくるとも。悪いと思っていた部分が、いざ外に出てみると実は良い部分であることに気がついた例もありました。彼らが戻ってきて周囲に好影響を与えてくれることを期待しています。

 

――組織の枠を超えることで、社外で自分を客観視し、組織だけでなく自分自身の弱みや強みを再認識することにも大変効果がありそうですね。本日はお忙しい中、興味深いお話をありがとうございました。

***

インタビューに先立ち、丸紅から「この取り組みが社員の“学び”というテーマに沿えるかはわからない」というコメントをいただいていました。しかし、インタビューを進めていくに連れて、社内だけでは得られない知見や社外から自社・自分を振り返る経験を得られ、固定化された考えを打破することに寄与していることが見えてきました。

 

まなびのコンパスでは、早稲田大学が提供する、様々な業種や組織の方々が自分のコミュニティを越境して学びを深められる社会人向けプログラムの有用性をお伝えするべく、今後も定期的に“越境学習”的な取り組みをおこなう企業にインタビューを行い、社外における経験と学びの重要性について伺っていきます。ぜひご期待ください。

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