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サタデーレクチャー ~早稲田の杜の教養シリーズ~ アメリカ中間選挙の結果から見る、「トランプ大統領とアメリカ」 開催報告

早稲田大学エクステンションセンターでは、注目の研究者や専門家をお招きし、様々なテーマを取り上げる「サタデーレクチャー ~早稲田の杜の教養シリーズ~」を今年度秋学期より継続して開催することになりました。

去る2018年11月24日に、記念すべき第1回として本学社会科学総合学術院の中林美恵子教授が「トランプ大統領とアメリカ〜中間選挙の結果を受けて〜」と題して講演しました。当日の模様を一部抜粋してご紹介します。

早稲田大学社会科学総合学術院 中林美恵子 教授

大阪大学博士(国際公共政策)、米ワシントン州立大学修士(政治学)。元衆議院議員。経済産業研究所研究員や財務省財政制度等審議会委員など歴任。米国在住14年のうち10年間は米連邦議会上院予算委員会の連邦公務員(共和党)として国家予算編成を担う。跡見学園女子大学准教授、米ジョンズ・ホプキンス大学客員スカラー、中国人民大学招聘教授等を経て現職。『トランプ大統領とアメリカ議会』『グローバル人材になれる女性(ひと)のシンプルな習慣』『トランプ大統領はどんな人?』等多数。

 

アメリカ合衆国の中間選挙は、予算や人事などに関わる重要な「中間テスト」

財務省財政制度等審議会委員のほか、米連邦議会上院予算委員会の連邦公務員として国家予算編成に携わった経歴を持つ中林教授は、冒頭で、11月6日に行なわれたアメリカ合衆国の中間選挙(以下、中間選挙)が持つ重要な意味を指摘しました。

「アメリカでは日本と異なり予算も法律の一部であり、上院下院ともに通過しなければ成立しません。政権政党が選挙で上院下院ともに議席を多く獲得できればいいですが、そうでない場合、“Divided government(分割政府)※”となり、政策運営に支障をきたすことがあります」。

※日本でいう“ねじれ国会”

中林教授は、そうした意味でも、「米中間選挙は、トランプ大統領にとって重要な中間テスト」と表現し、その主な特徴について、振り返りました。

 

史上最多の女性候補者が活躍し、50年ぶりの大快挙ともいえる投票率

まず、特筆すべきは、アメリカの中間選挙史上最多の女性候補者数だったこと。さらに、共和党の牙城を民主党の女性候補が崩したことは、大快挙としてニュースで取り上げられたことを紹介。その象徴的な存在として、ニューヨークで社会民主主義をとなえ、プエルトリコ移民の系譜を持つ候補者であり、史上最年少で当選したアレクサンドリア・オカシオコルテス候補を例に挙げました。

セクハラ問題に声を上げる「#MeToo」運動が巻き起こる中、女性蔑視の発言が目立つトランプ大統領に対抗し、民主党は女性候補者を立てる戦略をとった結果、民主党の女性候補者はうなぎのぼりに人気を得ました。この現象は「現在のアメリカ社会の一部を表わしている」と中林教授は指摘します。

さらに、通常は4割前後にとどまる投票率が、50年ぶりの大快挙といわれるほど高かったことも注目できるということです。「今回はなんと5割に上る投票率で、揺れに揺れたベトナム戦争当時の投票率や、注目を集めた前回のオバマ政権下の中間選挙の投票率をも上回りました。」

 

年齢層、性別、人種から見た投票率と支持率

1億人を超えるものすごい投票者数のあった中間選挙の特徴としては、若い世代もシニア世代も投票する人が多かったことが、相対的に高い投票率につながったと中林教授は指摘します。特筆すべきは、若い世代は圧倒的に民主党支持者が多く、45〜60歳は共和党支持が半数を占める点。「トランプ大統領はこうしたデータは必ずチェックしているでしょう。若い人の民主党支持率は圧倒的で、かなり冷や汗をかいたはずです」。

性別投票者比率に関しては、女性52%、男性48%と女性の方が高い結果に。また男性はどちらかといえば共和党支持者が多かったものの、女性は59%が民主党に投票しており、圧倒的に民主党支持の傾向が強かったとのこと。

さらに人種別では、投票者の72%を占めた白人は、54%が共和党の候補者に投票し、投票者の28%を占めた非白人有権者は、76%が民主党に投票しており、真っ向から割れているのが特徴だと中林教授はデータをもとに解説します。非白人が民主党を支持する理由について、「民主党は人権主義、人道主義、男女性差別撤廃を基とし、宗教観や人種についてもリベラルな印象が強いため、マイノリティにとって親和性がある」と説明します。

実際、出口調査で明らかになった投票者のデータを見ると、投票所に足を運んだ黒人の9割は民主党支持であり、ラテン系、アジア系も7〜8割が民主党支持者。人種別の投票率と問題点について中林教授は指摘しました。「白人は投票率7割以上なのに対し、非白人の投票率は3割にも満たないので、それが選挙結果の明暗を分けているのです」。

 

年収別、宗教別から見た投票率、支持率

年収別で見ると、共和党支持者は“プアホワイト”、“ラストベルト”に代表されるような貧しい人が多いと言われていますが、共和党の伝統的な支持者には、高所得者が多い傾向にあると中林教授は指摘します。「二大政党制のアメリカでは、両党に伝統的な支持者がいるため、選挙が接戦になると一部の有権者や浮動票が注目を集めることになります。」

続いて、宗教別の投票率、支持率について、中林教授は以下のように述べました。

「キリスト教福音派が有権者の26%つまり4人に1人の割合で存在することが、今回の出口調査でも明らかになりました。福音派の人々の75%は共和党の候補者たちに投票しており、民主党候補者に投票したのは22%に止まりました。トランプ大統領の選挙戦略としては、手放すことのできない貴重な支援者たちといえます。投票者の26%を占めるカトリック教徒となると、投票先も共和党と民主党がほぼ半々となり、投票者の2%を占めるユダヤ教徒は、その79%が民主党候補者に投票しました。無宗教者も投票者の17%おり、その70%が民主党の候補者たちに投票しています。」

さらに、変わりゆくアメリカについて、2012年と2060年の人種別人口構成(米国国勢調査局、米国商務省)のデータをもとに、2045年の人口構成をみると、中南米系のヒスパニックが増えて、白人が少数派に転落すると算出されています(ブルッキングス研究所調べ)。これらのデータは共和党支持者層の人口が減少することを示唆していると説明。

「ここまで触れてきた投票率、支持率の傾向についてトランプ大統領が脅威を感じずにゆったり構えていたとしたら、そして共和党支持者たちの投票率を上げる努力をしなかったならば、民主党が大勝した可能性もありました。トランプ大統領にとっては逆風だったので、投票へ向けて保守的な支持層の危機感を煽った結果、それに対抗する民主党支持層も危機感を募らせ、最後にはオバマ大統領やバイデン副大統領まで引っ張り出して演説してもらうといった抗戦劇があったのですが、過去にそういった例はほとんどなく、そういう意味でも前代未聞の中間選挙でした。結果的に、歴史的な投票率の高さにつながったと思われます。」

 

アメリカ有権者における世代ごとの割合

続いて、アメリカの世代ごとの人口構成にもふれました。アメリカでは、次の6つに世代がカテゴライズされるとのこと。

 

グレーテストジェネレーション(1927年以前生まれ)

サイレントジェネレーション(1928〜1945年生まれ)

ベビーブーマー(1946〜1964年生まれ)

ジェネレーションX(1965〜1980年生まれ)

ミレニアル(1981〜2000年生まれ)

ポスト・ミレニアル(2001年以降生まれ)

 

特に今、話題になっているのは「ミレニアル世代」だと中林教授は説明します。高い学費の借金を抱え、インターネットの知識に長けている世代です。そして今後、グレーテストジェネレーションをはじめとする先の世代がどんどんフェイドアウトし、若い世代であるミレニアル世代、ポスト・ミレニアル世代が主体となる時代が来たときに、政党支持の分布が現状のままだとしたら、長期的には共和党に未来はないと思わざるを得ないと言及。

その背景としてあるのは、世代別のアメリカの人種の構成比だといいます。グレーテストジェネレーションの8割以上が白人でしたし、若者より年配者のほうが投票率も高いですが、時代とともに人種構成が塗り変わり、選挙も政情も変わってくると説明する中林教授。「今回の出口調査を見ても、非白人の支持者は圧倒的に民主党支持であり、ミレニアル世代はヒスパニックが20%を占めています。人種の関係なしにしても、18歳から29歳の若者の67%が民主党に投票しています。今回の中間選挙では、ミレニアル世代で史上最年少の29歳で当選したオカシオコルテス候補のほか、黒人系、ムスリム系の人たちが下院議員でたくさん当選しています。そうした多様な人たちがすでにアメリカ社会を変える時代になっているのです」。保守的な共和党に危機感が生まれるのは当然で、白人や年配の共和党支援者が投票所に足を運ぶ最大の動機となり得ているそうです。

 

これからのトランプ政権と政局について

「数々のデータをふまえ、中間選挙を終えた今後について、長期的な視点から見た場合、共和党はトランプ大統領のやり方を続けながら生き残れる術はなく、変化を余儀なくされるでしょう。共和党支持者の投票率が非常に高いという強みは継続するかもしれませんが、上述したように、ミレニアル世代の民主党支持率の高さをはじめ、人口・人種の比率や推移、若い世代や女性、多様な人種の活躍ぶりを見ると、長期的な傾向は明らかです。一方で、民主党はリベラル派が大量に当選したことで、政党内統治が困難になっている側面もあります。だからこそ、両政党ともに良心的な候補者を揃えて政党内改革をしていく必要があります」と、中林教授は指摘しました。

ほかにも、側近や家族の登用問題、対外国との貿易摩擦などについて総合的に触れた今回の講座。講義終了後には、多くの参加者から鋭い質問が相次ぎ、中には大学受験を控えた高校生から中林教授の大学での授業についての質問まで飛び出しました。日本人にとって関わりの深いアメリカ政局への関心の高さが表れ、会場は熱気を帯びたまま幕を閉じました。

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「サタデーレクチャー ~早稲田の杜の教養シリーズ~」では、今後もさまざまなゲストによる講座を開催予定です。次回以降は以下の通り開催を予定しています。

2019年1月26日 (土) 13:00 – 14:30 「21世紀の経済風景―グローバル化のゆくえ―」 同志社大学 浜 矩子教授 ⇒ 詳細はこちら

2019年2月9日 (土) 14:00 – 15:30 「憲法とは何か ― 良識に立ち戻る」 早稲田大学法学学術院 長谷部 恭男教授 ⇒ 詳細はこちら

 

 

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