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誰しも身近な世の中のニュース、だからこそ、学んでおきたい情報の真偽とリテラシー

早稲田大学オープンカレッジでは、2019年2月より、「市民のためのファクトチェック実践講座」を開講します。講義を担当するのは、毎日新聞社で30年近く記者経験のある瀬川至朗教授。

瀬川教授はこれまでも「問題報道の構造」などの講座を担当し、近年、ネットを中心に問題視されているフェイクニュースの背景や正体について取り上げてきました。テレビや新聞、Webなどを通じて目や耳で触れる世の中の報道は、私たちにとって身近な情報であり、無関係ではいられません。

講座開講に先立って、瀬川教授にニュースを読み解く力の大切さや、それを社会人が学ぶことの重要性について話を伺いました。

 

早稲田大学政治経済学術院 瀬川至朗 教授

東京大学教養学科科学史・科学哲学分科卒業。毎日新聞ワシントン特派員、編集局次長などを経て、2008年から現職。NPO法人ファクトチェック・イニシアティブ(FIJ)理事長。「劣化ウラン弾報道」のチーム取材で1998年にJCJ奨励賞(現JCJ賞)を受賞。『科学報道の真相 ― ジャーナリズムとマスメディア共同体』(ちくま新書)で科学ジャーナリスト賞2017を受賞。専門はジャーナリズム研究、科学技術社会論。

 

ニュースを読み解く力を身につける重要性

――瀬川先生はオープンカレッジで「メディアと権力」、「問題報道の構造」などのジャーナリズムに関する講座を担当されていますが、その概要を教えてください。

「メディアと権力」について言えば、政治とニュースは切り離せない関係にあることが根底にあります。近年、問題となった加計学園問題やトランプ大統領にまつわるフェイクニュースの正体など、それぞれの事象やニュースを歴史的背景や法律など多角的な側面から考察しました。この講座は私と山田健太先生(専修大学)の二人で担当し、私の授業では、ニュースの背景にあるものを知ることで、報道されていることの本質はどこにあるのかを見抜く力を養うことを目標としました。山田先生の授業では、ジャーナリズムの基本である「表現の自由」「言論の自由」に触れ、その重要性を認識していただくよう、解説していただきました。

インターネット全盛の時代になり、フェイクニュースや真偽の不確かな情報が出回っています。「問題報道の構造」では、不確かなニュースの性質や、マスコミの報道による「誤報」の実例に触れながら、私たちがニュースを読み解くために、何に気をつけるべきなのかを解説しました。

 

フェイクニュースや曖昧な情報に踊らされないために

―― 「フェイクニュース」という言葉は、日本ではトランプ大統領の一件で広く知られるようになりましたね。

グーグルトレンドで検索すると、2016年のアメリカ大統領選挙直前に検索キーワードとして「フェイクニュース」が跳ね上がっていることがわかります。
トランプ大統領を誕生させたのがフェイクニュースであるといわれている一方で、トランプ自身が嫌いなメディアを“フェイクニュース”と呼び、そのニュースの発信元の信頼性を失わせるべく世の中を巻き込んだわけです。この問題を捉えるには、政治的に情報を操作する、いわゆるプロバガンダについて考えることも重要です。権力者が自分の都合のいいように誘導しようとする動きについても、それぞれの講座内で実例を交えながら解説しています。

――そうしたことを現代の社会人が学ぶことの意義について、瀬川先生の考えをお聞かせください。

アメリカ大統領選挙を機に、フェイクニュースが大きく取りざたされ、多くの方が関心を持ちましたが、それを自分事として感じている人は少ないものです。しかし私は、自分事として受け止めるべきだと考えます。あらゆる情報や報道には、広告も含め、戦略や作為が存在します。それらに踊らされることなく自身の考えを持つことが大切です。個別のニュースは、それがたとえ事実に基づいていたとしても、情報の取り上げ方はメディアによって違いがあり、必ずしも現実に即しているものばかりではないということを認識する必要があります。情報やニュースの作られ方を理解し、その根拠を見極めることで事実と意見を区別することが肝要です。

 

社会人が学ぶことの大切さ

――社会人学生や受講生の反応はいかがでしょうか。

勉強熱心な方が多く、社会人としてあらゆるバックグラウンドがあって、それぞれ専門もキャリアもさまざまです。一方で、これまでの経験で築いた自分の考えができ上がっていて、固定化されている印象も受けます。それをほぐすには、新しい情報に反応する柔軟性が必要だと思います。年齢や経験を重ねても絶えず新しいことに関心を持って、視野を広げて自分の考えをアップデートし、高めていくことが望ましいと考えます。

――これまでの仕事のキャリアやさまざまな経験で築いてきた考え方も生かしながら、新しいものを吸収したり、磨き上げたりしていけたら理想的ですね。瀬川先生が社会人の学生に教える際、気を配っていることはありますか?

社会人の方は、「何を学び、研究するか?」という目的意識がはっきりしている人が多く見られます。これまでの蓄積に加えて、柔軟に新しい見識を広げていけたら、それは強みになるし、より深い学びにつながると思います。
これは私にもいえることですが、社会人として経験してきたことに慢心せず、謙虚さと対等性を持って研究を続けることが重要です。私が教えるスタンスとしても、知識を与えるというよりは、考えるきっかけや気づきのヒントを与えられるよう心がけています。また、社会人の場合、持っている知識もそれぞれですから、経験に基づいた深くて鋭い質問する方も多いです。だからこそ、そこにきちんと応えられる努力をするようにしています。

――日本は、社会人があまり学ばない国だと言われていますが、人生100年時代といわれる今、社会人がジャーナリズムやメディアについてあらためて学ぶことで得られるものについて、先生の考えお聞かせください。

ニュースを読み解く力は広く社会人に必要なリテラシーだと思いますが、特にもともと記者だった人や、広報を担当する人が学ぶ意義は大きいと考えています。あらためてジャーナリズムやメディアについて学び、自身がこれまで実践してきたことを学術的に考察することで、理論や学説に基づいて整理することができます。その上で、足りていなかったことをさらに学びなおすことは、とても有意義なことです。

 

ニュースの真偽をチェックすることで、見えてくるものとは?

――オープンカレッジの冬講座(2月開講)では、「ファクトチェック」をテーマに開催されますが、その内容について教えてください。

実在する身近なニュースを題材として、事前に解説した方法により根拠を突き詰め、その内容が真実か否かの判定を行い、レポート化する演習形式の講座です。エビデンスがどこにあるのかをチェックする力を実践的に身につけることが目標です。これは現役の学部や大学院の学生にもジャーナリズム・メディア演習というゼミや「ジャーナリズムと公共」という科目で教えていることです。

学部生が実施した調査で、わかりやすくその真偽が出た例としては、沖縄県知事選挙に関するファクトチェックがあります。評論家の竹田恒泰氏がAbemaTVに出演した際の「沖縄が米軍基地の70%を負担というのは数字のマジック」という発言の真偽を調査しましたが、結論として、この発言内容は誤りであると判定できました。調査結果は私のゼミのwebマガジン(http://wasegg.com/)に掲載しています。

――今の時代、自社でオウンドメディアを発信する企業、コンプライアンス意識が高い企業も多いので、ファクトチェックは、多くのビジネスパーソンにとっても需要が高い技能ですね。最後に、これから学びたいと考えている社会人へのメッセージをお願いします。

まずは、物事に対して根拠を持って論理的に考える力を身につけていただきたいと思います。

そのとき、自分の中で仮説を立ててみることが重要です。目で見て確かめたり、調査したりすることで、その仮説が崩れることもあるでしょう。でも、そうやって崩れることがおもしろいのです。なぜなら、理屈で考えた仮説が通るよりも、予想外のことが起きる方が新しい発見があるからです。

2019年2月開講予定「市民のためのファクトチェック実践講座〜ニュースの真偽を調査する手法を身につける〜」の詳細はこちらをご覧ください。

 

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