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大学の日本語教育機関として世界最大級-30周年を迎えた早稲田大学日本語教育研究センター(CJL)が記念シンポジウムを開催

早稲田大学日本語教育研究センター(以下、CJL)は、1988年に旧語学教育研究所(語研)から分離独立し、今年30周年を迎えました。留学生への日本語教育を軸に発展し、大学の有する日本語教育機関として、今やその規模は世界最大級と言っても過言ではありません。また、留学生の増加や留学目的の多様化など社会の状況も変化しており、今後のさらなる進化が求められています。

2018年9月16日、CJLの30周年を記念して、日本語教育の現状と問題認識を関係者間で共有し、未来のCJLを展望する記念シンポジウムを開催しました。当シンポジウムの内容を抜粋してご紹介します。

 

CJLのこれまでの30年の歴史とこれからの展望

早稲田大学国際担当理事(当時) 森田典正国際学術院教授

第一部では、早稲田大学国際担当理事(当時)である森田典正国際学術院教授を筆頭にCJLの教員たちが、CJL発足の経緯をはじめ、これまでの歩みやこれからの役割、意義について力強く語りました。

 

森田教授:

早稲田大学の日本語教育の歴史は、外国人学生特別選抜制度が始まった1955年に入学した24名の留学生への教育に端を発しています。1962年に国際部が特殊学校として留学生を受け入れるようになったことから、日本語の履修生が一気に増え、1966年には289名の留学生が本学で日本語を学んでいました。

その後、1980年代に日本語教育の需要がさらに拡大し、1988年に本学は日本語教育研究センター(CJL)を設置しました。当時、500名弱だった在籍者数は、今やその約5倍の2,265名に拡大し、毎週650コマの授業が開講され、196名の教員が指導にあたっています。大学の日本語教育機関としては、その規模は世界最大級にまで成長しています。

CJLのすばらしさは、履修生の数や授業内容だけでなく、これまで輩出してきた人材にも見て取ることができます。たとえば現在、ハイデルベルグ大学で日本中世美術史を教えているメラニー・トレイル先生らをはじめ、本学で日本語を学んだ研究者は、私が知るところでも、枚挙に暇がありません。

本学のビジョンを示す「Waseda Vision 150」の中のWaseda Ocean構想では、2032年までに受入れ留学生を1万人まで拡大することを目標としています。これが実現すれば、現在の倍の規模となります。容易に実現できることではありませんが、大きな課題として、今後いかにして400人規模の優れた日本語教育者を確保していくかということがあります。

また、「日本語教育研究センター」の名称に「研究」の名を残していますが、このことは極めて重要な要素だと考えています。CJLの主な目的は日本語教育ですが、その現場は、いわば日本語教育の臨床の場であり、日々の実証的研究の基礎となる役割を担います。次の10年、20年、30年に向けて、CJLがますます充実、発展するよう尽力したいと考えています。

 

CJLの今後の課題とは

続いて第二部では、教職員、学生が登壇し、パネルディスカッションを実施しました。「CJLの現在と未来〜世界における日本語教育イニシアティブを目指して」をテーマに、それぞれの立場から率直な意見が交わされました。モデレーターは、CJL所長(当時)の舘岡洋子国際学術院教授が務めました。

冒頭で舘岡教授は、「日本の学生と留学生双方の立場から様々な意見をお聞きし、また、大学としてCJLをどのようにより良くしていくべきか、そのヒントを得られる場にしたいと考えています」と呼びかけるところからスタート。現在、CJLが抱える課題について述べました。

CJL所長(当時) 舘岡洋子国際学術院教授

舘岡教授:

CJLには、「多様性」「主体性」「開放性」の3つの特徴があります。「多様性」については、カリキュラムはもちろん、多様な国籍を持つ留学生の在籍などが挙げられます。また、「主体性」という意味では、受講者自身がスケジュールを組み立てられる仕組みを提供しています。ただし、「開放性」についてはまだまだ課題があります。CJL自体の知名度が低く、他の機関ともっと連携することでより知名度を高めていく必要性を感じています。また、CJL在籍者と日本の学生とのつながりが薄いこと、さらに留学生の日本での就職等の進路の道筋を示すことができていないという課題も抱えていると認識しています。

 

留学生や日本の学生からの意見

一方、留学生を代表して、社会科学研究科修士課程1年の劉陽さんからは、留学生の立場から見た早稲田大学およびCJLについて意見が述べられました。舘岡教授がすでに認識しているCJLが抱える課題についても言及され、率直な要望が出されました。

 

劉陽さん:

CJLの優れた点は、先ほど舘岡教授からもお話しがあったように、270以上の多数のプログラムが揃い、受講生が主体的に選択できる点です。

しかし、日本語能力の診断ソースが限られているため、会話と作文の能力が測れません。そのため、自分のレベルに合わない授業を選択してしまい、学習困難に陥る留学生が私の周囲にいます。日本語能力の診断ソースを増やすべきだと考えます。

また、講義内容について、例えば私は大学院進学に備えて、研究計画書を書く授業を受け、そのおかげもあって大学院に進学できました。一方で、ビジネスやアカデミックな内容のものが他のジャンルのものに比べて少ないので、進学・就職時に実践的に役立ち、私たちの将来につながるようなプログラムを増やしていただけたらと考えています。

早稲田大学として優れている点は、わせだ日本語サポート、キャリアセンター、ICC(国際コミュニケーションセンター)、国際交流サークルなどのような様々なサポート体制があることです。

一方で、窓口が分かれており、結果として情報が分散してしまい、わかりにくい面もあるので、支援拠点を一元化するのはいかがでしょうか。私はアメリカやイギリスにも留学経験があるのですが、支援拠点がわかりやすく整備されていました。また、日本の学生との交流の機会はあっても、一部の日本人との一時的な交流にとどまっているのが現状です。もっと両者がともに学んで成長し合える環境が理想だと感じています。そうした課題を解決し、CJLが世界における日本語教育を牽引するような存在に発展することを願っています。

大学院社会科学研究科 修士課程1年 劉陽さん

劉陽さんのような留学生と日本の学生との交流を目的に発足した学生団体「国際交流 虹の会」の幹事長で、文学部3年の岡田大空さんからは、具体的な活動内容と課題について報告されました。

岡田さん:

現在、「国際交流 虹の会(以下、虹の会)」では、日本人、留学生の隔たりなく、初詣、ハロウィン、旅行、早慶戦観戦、スポーツイベントなどの行事を実施しています。各国の料理を作って食すフェスタは特に人気イベントになっています。また、早稲田大学から依頼を受け、携帯電話の契約、区役所への住民登録、東京案内、地震対策などの留学生の生活支援もしています。虹の会のメンバーの英語レベルはまちまちで、留学生の日本語レベルも同様です。そのような状況で、留学生の増加という要素も加わり、十分に対応しきれていないのが現状です。留学生の私生活や公共の場でのマナーなど実用的なサポートのためのシステム強化、人員増加などが課題となっています。

「国際交流 虹の会」幹事長 文学部3年 岡田大空さん

また、岡田さんからCJLに「今後、虹の会に期待する活動はどのようなことですか?」という質問がありました。これを受け、舘岡教授は次のように答えました。

 

舘岡教授:

虹の会が、留学生を手厚く支援してくれていることをあらためて認識し、感服しました。虹の会の皆さんにはすでに十分ご尽力いただいていると思います。同時に、人手が足りず、留学生の急増に対して、支援の量と質が追いついていない現実を実感させられ、大学としての課題であると認識しました。今後、日本の学生にももっとCJLの門戸を広げて、国際交流のバリューを提示し、量と質の両方の観点から支援内容の向上を目指したいと考えます。そのためにも貴重な協力者である虹の会の皆さんには、日本の学生、留学生双方がWin-Winの関係性を築き、支援してあげること、してもらうことが両立し、持続的に発展していただくことを期待いたします。

早稲田大学国際部長(当時)の黒田一雄国際学術院教授は、今後の大学の国際化と日本語教育のあり方について、次のように述べました。

黒田教授:

留学生を、支援の対象とするだけでなく、逆に教えていただく対象としてお互いベネフィットを持って、双方から学び合えることが、大学全体にとっても重要だとあらためて感じました。

実はCJL発足の大元には、戦前の国家建設を優先する時代から、早稲田大学が世界に貢献するビジョンを打ち出していたことがバックグラウンドとしてあるのです。その後、留学生が増加し、海外からの研究者の受け入れ、海外大学の日本校の増設、ICT教育の普及などにより、本学に限らず、高等教育の国際化が進んでいるのが現状です。

「WASEDA VISION 150」の中でも掲げていますが、本学は2032年までに留学生を1万人に増やすこと、外国人の教職員を2割に増やすことを目指しています。さらに、海外からの研究者を積極的に受け入れることもトレンドになっています。

現在、東アジアからの留学生が78%を占めますが、提携校からの交換留学生として、アメリカやヨーロッパからの留学生も増えてグローバル化が加速しています。半数の留学生は日本語で、残り半数の留学生は英語で授業を受けていますが、双方の学生に対応した柔軟な日本語教育のニーズも高まっています。

今後は、大学として、日本人との交流や就職対応の日本語教育にも力を入れていく考えです。本学が「世界大学ランキング」の言語分野で上位にいる要因として、日本語教育に注力していることが大きく影響しています。そうしたことも踏まえて、留学生のニーズ、日本の学生との共生、優秀な日本語教育者の教育に力を入れることで、CJLをより発展させ、最先端の日本語教育機関として成長し続けることが、本学の国際化の要になると捉えています。

早稲田大学国際部長(当時) 黒田一雄国際学術院教授

 

留学生に必要なのは、わかりやすい情報提供と就職支援

一方、留学生の学習支援を掌る「わせだ日本語サポート」担当教員の寅丸真澄日本語教育研究センター准教授からは、留学生の増加にともなうサポート状況について報告がされました。劉陽さんのような留学生にとっては、身近な日本語教育に関する支援窓口のひとつです。

 

寅丸准教授:

「わせだ日本語サポート(以下、わせサポ)」では、日本語教育に関する問題解決などを通じて、留学生活の質を高めるべく支援を実施しています。具体的な相談事としては、「日本人の友達が欲しい」「JLPT(日本語能力試験)に合格できるアカデミックな日本語を身につけたい」「発音教材を知りたい」「文型の使い方を知りたい」といった内容です。先ほど、留学生の劉陽さんからもお話がありましたが、現在、週3回開所していても、有用な情報を伝えきれていないのが現状だと認識しています。今後は、「わせサポ」が本学における留学生サポートのハブとなり、日本語学習の相談に応じると同時に、関係支援箇所や団体を紹介できるスムーズな仕組みを作りたいと考えています。

「わせだ日本語サポート」担当教員 寅丸真澄日本語教育研究センター准教授

 

また、留学生支援の視点から国際教養学部/国際コミュニケーション研究科で学務業務、受入・派遣留学関連業務を担当する職員の陳永盛さんも、意見を述べました。

陳さん:

実は私も17年前に早稲田大学の学生として、CJL、虹の会のメンバーだった1人です。現在、留学生のキャリア支援を通じて感じているのは、就職の理想と現実です。留学生の大半は大手志向ですが、一方で日本における大手企業の割合は1%未満とも言われています。また、基本的に企業側が社員の職務を決定する日本型の慣例的な人事制度に対し、留学生は常に自身のやりたい業務に従事したいという人が多いと思われます。これらのことが、ミスマッチの主な要因となっています。もちろん、高い日本語能力も求められます。そうしたことを踏まえて、外資系企業や中小企業とのマッチング、インターンシップの活用を通じて留学生のキャリア支援を行っています。

QS Graduate Employability Rankings 2019が発表され、早稲田大学は国内私立では引き続き1位となりました。外国人労働者の需要が高まっている今こそ、時代やニーズに合わせた支援を検討、実行し、留学生のキャリア支援にあたりたいと考えています。

国際教養学部/国際コミュニケーション研究科 学務業務、受入・派遣留学担当職員 陳永盛さん

最後に、舘岡教授がシンポジウムを総括し、CJLが取り組むべき方向について決意表明がありました。

 

舘岡教授:

CJLおよび大学が抱える留学生支援の問題点が浮き彫りにされたと思います。

就職支援もCJLの重要な課題として、その道筋を示すことができるよう注力していきたいと考えています。

現状の留学生のサポート体制についても、支援窓口が多数存在することで、かえって留学生にとって分かりづらくなっているようですので、早急なシステム化が必要だと感じました。

これまでも早稲田大学は様々な時代の要請に応えてきましたが、ややもするとこれは御用聞きのようにもなりかねません。CJLが重要な役割を担っていることを再認識いたしました。そして、これからもみなさんと連携して日本語教育の先端的な取り組みを推進しつつ、それを積極的に発信していきたいと思います。

早稲田大学日本語教育研究センター

https://www.waseda.jp/inst/cjl/

 

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