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地方でいきる(2):徳島で働く人々

魅惑の徳島、「VS東京」ってなに?

みなさん、「VS東京」という言葉をお聞きになったことがありますか。「VS東京」は徳島県が掲げている地域創生を目指す共通コンセプトで、そのプロモーション映像を都内の飲食店で偶然見かけました。スローモーションの阿波踊りの映像のなか、ベートーベンのBGMとともに流れるのが「徳島は変わり、東京を変える。東京が変わったら、日本が変わり、もっと豊かな日本になるんちゃうん」「徳島が東京を救ったるわー」といった威勢のよいメッセージ。意気込みとともに若干のユニークさをも醸し出しています。

調べてみると、「VS東京」とは東京への一極集中に歯止めをかけるべく、東京を驚かせるようないくつもの必殺技を地方が知恵を絞ってやり抜こうという決意のメッセージのようです。「徳島VS東京」ではなく、あくまでも「VS東京」。これから、地方が胸を借りるつもりで大都市東京に挑み、徳島県はその先頭をきってがんばりますということのようです。徳島県は実に期待させてくれます。

 

WASEDA NEO会員の方から、「地方創生なら、徳島県の神山町や上勝町が参考になりますよ」と地方創生の事例として有名な神山モデルの本を二冊紹介していただきました。

読んでみると、神山町が長い年月をかけて、外国人もがわざわざ神山町を探し出して訪問するほどの魅力ある地域に変貌してきているさまに驚かされます。神山町に集う人々の実際の人物像と仕事内容が紹介されており、それが一人や二人ではなく、これでもかというほど多くの方が取り上げられ、とても説得力があるのです。これこそ「VS東京」に隠された必殺技の一つに違いないと確信しました。

これは一度、神山町の実態をこの目で見なければと思い、徳島県内の知人に相談したところ、徳島県で証券会社を経営している泊健一さんを紹介していただきました。泊さんは早稲田大学の卒業生で、神山町のいくつかのプロジェクトのファンド獲得支援をされたご経験があり、2018年9月に徳島県で開催された日本公認会計士協会研究大会で、神山町における地方創生を中心となって進めてこられた認定NPO法人グリーンバレーの大南信也理事長らとともにパネルディスカッションにも登壇されました。

WASEDA NEOスタッフは、早速、泊さんを訪ねることにしました。

 

神山に集まる人々

徳島空港から車で神山町へ向かう道中、泊さんから神山プロジェクトについてお話しを伺いました。神山プロジェクトは、NPO法人グリーンバレーが20年以上に渡って活動し、神山町のみなさんがよそ者を理解し受け入れてくださり、国内外からアーティスト、若手、IT企業の社員など様々な、多くの人々が集まり、まちを形成するようになったということです。

徳島市街地を通り過ぎ、谷沿いの道を走っていると、山間部に学校の校舎や住居、商店などが集まっている地区があります。書籍で紹介されていた建物などがちらほら見えてきて、神山町に到着しました。

まずは「えんがわオフィス」を訪問しました。株式会社プラットイースの築90年の古民家を改築したオフィスで、サテライトオフィスとしては大変有名です。縁側を箒で掃除されていらっしゃる方が、こちらから声かけるまでもなく写真撮影OKですよと実にオープンマインドで接してくださいました。ガラス張りで屋内のオフィスがよく見通せます。内部ではさすがにスタッフは集中している様子でありますが、どこかあたたかみを感じさせる空間でした。

次に向かったのは、縫製工場をリノベーションし、シェアオフィスに生まれ変わった「神山バレー・サテライトオフィス・コンプレックス」。NPO法人グリーンバレーの木内康勝さんが丁寧に説明してくださいました。地元の女子高校生らによる「森林女子」の活動拠点である工房などもあります。コワーキングスペースで働いていらっしゃる株式会社ダンクソフト神山ブリッジキャプテンの本橋大輔さんは、自作ドローンを見せてくださいました。子供たちにドローンの科学を教えておられるそうです。とくしま新未来創造オフィスの原内孝子室長からも声をかけていただきました。地方貢献を標榜している早稲田大学ですが、いまのところ早稲田大学の学生がフィールドワークなどで神山町を訪れているわけではないことから、お互いになにかできるといいですねとしばし歓談しました。

まちを車で走っているとおしゃれな店舗があります。

オープンしたてのKAMIYAMA BEERでは、アムステルダムから移住されてきたご主人が、作業中の手をとめて笑顔で迎えてくださいました。日本人の奥様と一緒にクラフトビール醸造所を立ち上げていらっしゃいます。

SHIZQ Gallery shopという神山杉を用いた食器を扱う店にも立ち寄りました。杉を使った横木目の模様が器をとても美しくみせます。川の水量が減少してきていることが杉林の荒廃の原因となっていることから、林業を復活させ神山杉の付加価値をあげることを目指し、試行錯誤して開発されたものだそうです。山と川の循環を改善させるという視点で立ち上げられたプロジェクトとして始まったお店です。

昼食で立ち寄ったのは、泊さんがクラウドファンディングでお手伝いされたという民宿です。古民家の大広間で昼食をいただきながら、宿のご主人からは、若い人たちが多数宿泊しにきてくれて、楽しいお話ができてよいと伺いました。東京藝術大学の学生達も毎年フィールドワークで宿泊されるそうです。夕方になるといろいろな人が縁側に現れて話がつきない。宿泊するとそんな時間の過ごし方になるのだそうです。

ご主人と泊さんは、「人には与えなあかんな、見返り求めてはあかんな」と語りあっています。そのような気持ちがある方々が神山町に増えているからこそ、ますますよそ者がきて活躍し、まちの魅力も高まっているのでしょう。

 

神山町は一見どこにでもある山村のようです。しかし若手が次々と移住してきて定着し、さらには海外からも人がきて、この地を良くしようと働いているのはどこにでもある光景ではありません。長い年月、NPO法人グリーンバレーが率先し、神山町の皆様がよそ者を受け入れてこられたからこそ成り立っていると思います。今回、出会う方々がみなさんよそ者のWASEDA NEOスタッフにも親切に話しかけてくれたことは大変ありがたく、居心地よく感じました。NPO法人グリーンバレーが、民間として行政に頼りすぎず、かといって離れすぎずに絶妙な関係を維持してきたことが、持続的に発展しつづける神山のまちづくりの秘訣のようにも感じました。

案内してくださった泊さんは、神山に通ううちに社会貢献と仕事の両立に気づきはじめ、ご自身の人生観も大きな影響を受けたということです。証券業としてお客様の投資を支援することに向き合ってこられると同時に、最近では徳島の環境やまちを良くしていきたいと考える方々を応援できるよう、事業化に共感していただく方々からの資金調達を支援していく活動をとても大切に感じていらっしゃるそうです。

 

棚田保全や石積み技術の伝承「石積み学校」

泊さんとは神山町訪問だけでは終わりませんでした。徳島市に戻り、泊さんからご紹介いただいたのが、金子玲大さんです。WASEDA NEOスタッフが名刺を差し出すと、金子さんは連絡先と名前が書かれた石積みテキストをくださいました。

金子さんは、石積みの専門家はみな高齢になってきており、だれかが継承しなければいけないと考え、早稲田大学大学院在学中から石積みを研究されていたそうです。修士課程修了後に建設コンサルタント会社に就職するものの、石積み技術の継承者が途絶えてしまう状態を見かねて退職を決意されたそうです。そして上勝町地域おこし協力隊の一員として石積みに取り組むことにしたということです。

上勝町を中心に「石積み学校」を広域で開催し、延べ300名を超える方が参加され、棚田保全などのための石積みを実践されています。今でも、国内他地域のほかヨーロッパの石積み文化の継承について学ぶなど専門家としての探求を怠りなく、活動の傍ら徳島大学大学院博士課程に通っておられます。WASEDA NEOスタッフは、地方において自分の生き方に真摯に向き合いまさに学びと働きを両立されていらっしゃる金子さんにお会いできて大変感激しました。良い出会いは続くものです。

 

柑橘農家、みかん農家の宿あおとくると古書ブン

今回の旅の最後で、WASEDA NEOスタッフはさらなる出会いに恵まれることになります。金子さんから、石川翔さん・美緒さんを紹介いただきました。実は、徳島県のホームページの『徳島は宣言する VS東京』の『日本を救う10のヒント 他人を受け入れ、やさしい心で共棲していくためのヒントの巻』の冒頭にお二人は登場されます。「ご夫婦なんだけど、すごく気さくな人達なの。結婚を機にこっちに越してきたんだけど、せっかく結婚したから、別々に仕事をするんじゃなくって、ふたりで一緒に仕事をしたいなって思って引っ越してきたんだって」と徳島県が「VS東京」のさらなる必殺技としてお二人を取り上げているのですが、実際にお二人に出会うことになるとは想像もできませんでした。

石川さんご夫婦は、共に徳島県の出身ではなく首都圏出身です。早稲田大学卒業後はそれぞれ首都圏で仕事をされていましたが、結婚され都内で起業するか地方で活動するかを二人で話し合った末に、熟成みかん農家の後継者の道を選び、2016年3月徳島県勝浦町に移住されたそうです。

温州みかん、すだちなどの果実や野菜を有機肥料で栽培されていらっしゃいます。さらに、築100年超の古民家を有志とともに改修し、ファームステイができる宿を経営されています。宿内にて古本屋を開くなど日々活動範囲を広げていらっしゃいます。満天の星、山の眺望、風味豊かな食事、そしてお二人ならではのおもてなしは、宿泊者から高い評価を得ているようです。きっと徳島の地においてお二人がつくる空気は、人と人とが出会い運命のように織りなすなにかを感じさせてくれるはずです。次回徳島を訪問する際には宿泊してみたいと思います。

人生100年時代、生まれたところで一生暮らすのもよし、故郷とはまったく異なる場所に生きるのもよし。自分で判断したところで働くのを拝見していると、実にたくましく、すがすがしいと感じます。どこで働くとしても、視野を広げ、多様な価値観を許容して、たくましく生きていきたいですね。

 

(レポート:早稲田大学社会人教育事業室)

 

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